書音

□紅葉と過去
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十月も半ばになり、紅葉が色付き始めてきた。
そして、十二神将騰蛇こと紅蓮は紅葉狩りに来ていた。

「綺麗だな」
「あぁ」

事の発端は隣を歩く同胞の我が儘だ。
紅葉が見たいと言い出したと思ったら、ヘルメットを突き付けてきた。
連れていけ。と言うことらしい。

紅葉はあまり、好きじゃないんだがなぁ。
一度もそれを口に出した事はないから、周囲が知るよしもないのだが。
そんな紅蓮をよそに、勾陣は見事な紅葉(こうよう)を見て回っている。
紅蓮はベンチに座って紅葉を忌々しげに見つめた。

紅葉は赤い。
紅い紅葉は思い出させる。

昔の事を。

紅蓮は自分の両手に、視線を落とした。
朱に濡れた手のひら。
力なく握りしめた。
殺しかけた、二人の主。
どちらも自分の意思ではなかった。という言い訳は出来る。が、それを言うつもりは毛頭ない。

さぁっと風が吹く。
木々の枝が揺れ、葉が落ちる。
その中の一枚を紅蓮は地に落ちる前に捕まえた。

「赤は血か?」

不意にかけられた言葉は、ベンチの後ろで発せられていた。
振り向いたら、勾陣は背を向けて、ベンチの背もたれに手を掛けていた。
だから紅蓮も前を向いた。

「こんな綺麗な紅葉を見て、お前は昔を思い出すのか?」

独り言のような勾陣の言葉に、紅蓮は沈黙を返す。

「赤い物はたくさんある。いちいち思い出していては身がもたんぞ」
「…煩い」
「もういい加減、思い出さなくても良いんじゃないか?」

勾陣は絶対に"忘れろ"とは言わない。変わりに、"思い出すな"と。

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