書音

□星夜の帰り道
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空に輝く、紅い星。
それを見付けたのは、まだ小さな幼子だった。

あれはれーんのかみみたいにあかいほしだからあれはれーんのほしだよ。
無邪気に笑う姿に紅蓮は虚を衝かれたように、茫然としていた。
それを勾陣は穏行したまま、微笑ましそうに眺めていた。
一度認識してからは、ただの星ではなく「昌浩が見付けてくれた星」になった。



仕事の帰り道。
何気無く見上げた夜空は、昔よりも明るく、星の数もずっと少なくなった。
空を見て、思わず探してしまうのは紅い星。
時代と共に、夜は明るくなり、そして星達は見えなくなった。

「…見えないな」

口の中で小さく呟いた言葉は、誰にも訊かせるつもりはなかったが、静かな夜道。隣を歩いていた彼女に聞こえたらしい。

「お前の星がか?」
「ん?…あぁ」

勾陣はおもむろに空を仰ぐと、迷う事なく一つの星を指差した。

「なら、あれにしておけ」

勾陣が指差した星は、大きく金色に輝く星だった。
紅蓮は、しばらくその星を見つめていた。

「お前の瞳のような色だろ?」

紅蓮は、星に向けていた視線を勾陣に向けた。
驚いたようにまばたきを繰り返す。

「力強く光っているに、その輝きは優しい。まるでお前みたいじゃないか」

そう言って笑う勾陣に、紅蓮はふっと笑みを溢した。

「なら、俺の星の後ろにある小さな星がお前だな」
「ほぅ。ぜひ理由が訊きたいな」

勾陣は挑戦的ともいえる笑みを紅蓮に向けた。

「お前はいつも俺の後ろに居てくれた、殺してくれと頼んだ俺のために」

だから、俺の星の後ろの星がお前なんだ。
そう言った紅蓮の目はどこまでも真剣で、勾陣は言いかけた言葉を飲み込んだ。
変わりに、別の言葉を口にした。

「ありがとう」

紅蓮が言った理由の他にも理由はあるけれど、それを紅蓮に教えるつもりは勾陣にはなかった。

End.
 

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