書音

□特別なお菓子
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玄関にJack-o'-Lanternを置き、自室に戻ろうと踵を返したとき、
丁度彼女…、勾と鉢合わせになったのだった。
今しがた玄関に置いたかぼちゃお化けを眺めながら、
ほぅ…なかなかお前も器用だな、
などと言葉を洩らしているのを聞いた。
そんな彼女を見ながら、
ふと今しがた思いついたことを実行してみることにした。











「勾、」


「なんだ」


「Trick or treat...?」










甘いものを好まない彼女のことだ、
恐らく何も持っていないだろうと踏んで、
そんなことを言ってみる。
…いつも口では負かされてばかりなのだから、
たまには此方から仕掛けてもいいだろう?
そう思いながら。
勿論、今回は勝つつもりで。











「OK, I have some sweets. So, I'll give you.」











そう流暢な英語で返された言葉と共に放り投げられた一つのキャンディ。
…というか何故英語で返して来る、
そう無言で問いかければ、いつものように不敵な笑みを返してくるのだった。
やはり彼女には敵わない。
今回の目論見…キスの一つぐらい奪ってやろうかと思ったのだが…
それすらも失敗したと溜息を吐いたとき、
先ほど自分が発した言葉を彼女に言われたのだった。










「Trick or treat?」


「…は?」











これは想定していなかった。
つい先ほどまで南瓜と格闘していた自分に、
勿論お菓子など持っているはずもなく。
当然、今しがた勾に貰ったキャンディは除外されるので、
万事休す、とは正にこのこと。










「…ない」


「ほぅ…なら、悪戯、決定だな。
 …目を瞑ってみろ」


「…勾?」












この状況はもしかして。
そう思い、目を瞑った瞬間、柔らかいものが唇に触れたのだった。












が。
直後にぴしっと指弾され、突然何をするんだ、
と怪訝に思って目を開けてみれば、
何と唇に当てられていたのは…










マシュマロ。











「お前は…本当に面白い、な」











くつくつと可笑しそうに笑う勾を見ながらも、
自分は勾に勝つどころか、
まんまと彼女の仕掛けたものに引っかかったという事実に、
情けなくなると同時に、悔しさが湧き上がってきたのだった。
…が、待てよ。
我ながら良い案を思い付いたと口元を緩め、
そろそろ子ども達がやってくるはずだ、
と笑い終えた勾と共に準備に取り掛かるのだった。
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