書音
□喧嘩の後の
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ついていたテレビを流し見していた慧斗は、紅蓮の声に意識を引き戻した。
「ホントは明日にしようと思ったんだが、これ以上お前を不安にさせても意味ないしな」
そこで一旦言葉を区切って、紅蓮は何かを取り出した。
「一日早いけど、誕生日おめでとう」
慧斗は虚を衝かれたように、瞼を何度も上下させた。
そうだ…。明日は、私の誕生日。
自分の誕生日を忘れていた事が恥ずかしかった。
「それ。中出してみ?」
言われて袋の中身を取り出すと、正方形の小さな箱が入っていた。
それを開けると、入っていたのは、シルバーの細身のリング。
「…これ」
紅蓮の顔に、穏やかな微笑が浮かんだ。
「着けてやるよ。貸せ」
箱からリングを取り出すと、慧斗の右手を取った。
そして、細くて綺麗な薬指に────。
「ありがとう…」
慧斗は大事そうに左手で右手を包み込んだ。
「この店な、探してくれたの瑞希なんだよ」
仕事と、バイトで忙しく店を探している時間がなかった紅蓮の変わりに。
そこでやっと、最初から自分の勘違いだったという事に気付いた。
「すまない!…私の、勘違いだった」
「良いよ」
伸ばされた紅蓮の手が、慧斗の頭に置かれた。
「何も言わずに不安にさせた俺も悪い」
だから、仲直りな?
それからは一瞬だった。
頭に置かれていた紅蓮の手が後頭部に回り、近くなった紅蓮に驚く隙もなく唇を奪われた。
「なっ…!」
離れた紅蓮を睨み付けたが、紅潮した頬では威力は半減していて紅蓮にはどこ吹く風だった。
End.