書音
□喧嘩の後の
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「珍しいわね。何かあった?」
天后がコーヒーを出しながら尋ねた。
慧斗は受け取ったコーヒーに口を飲みながら曖昧に頷いた。
「明日って、何かあったか?」
「明日?」
「ああ。明日だ」
天后はくすりと笑うと、言い切った。
「あるわ」
コーヒーの水面を映していた目を、やけにはっきりした口調で断言した天后に移った。
「でもそれは自分で気付くことだから、私は教えられないわ」
天后は自分のコーヒーをすすった。
「そうか」
慧斗が帰るまで天后は一度も尋ねてきた理由を訊かなかった。
それは慧斗が訊かれたくないことで、そういう気遣いが出来る天后が慧斗は好きだった。
「すまない。すっかり長居してしまった」
「こっちも何のお構いも出来なくてごめんなさい」
玄関まで見送りに来た天后に、じゃあと手を振って家に帰る。
家に着いたら紅蓮は居た。
まだ出かけていないのかと尋ねたところ、もう行ったと返答があった。
天后と話した事もあってか、いつも通り紅蓮と話せる自信があった。
「何か飲むか?」
「じゃあ頼む」
コーヒー以外に何かないだろうかと探していたら、貰ったきり忘れ去られていたハーブティーがあった。
「これは?」
出された物が分からなかった紅蓮は素直に尋ねた。
「カミツレという花のお茶だ。貰ったきり忘れていたからな」
「そうか」
それからしばらくはどちらも話さなかった。
ただ、無言がその場を支配ていた。
「──なぁ」
雑誌を読んでいた紅蓮が、声をかけた。
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