書音

□喧嘩の後の
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「…紅蓮……」
「ん?」
「何で目を合わせようとしなくなった…」
「すまん」
「…何で私と関わろうとしなくなった」
「すまん」

慧斗の問いに、紅蓮は答えない。それどころか視線がさ迷っている。

「答えろ、紅蓮」
「………すまん」

すまんじゃ分からない。
それでも紅蓮はただ抱きしめたまま謝るだけ。

「だけど」

不意に発せられた言葉に目を向ける。

「今日で全部終わるから。だから絶対、明日開けとけよ」

紅蓮は慧斗を離すと、朝食を食べるべくテーブルについた。
しばらく放心していた慧斗は、今度こそリビングを出て部屋に戻った。

部屋に戻った慧斗は、自分の携帯に手を伸ばした。
二つ折りの携帯を開けると、電話帳から一つの番号を呼び出す。
呼び出し音を訊きながらベッドに仰向けになる。
コールを五回数えた所で相手が出た。

『もしもし?』
「天后、今日…空いているか?」
『えぇ。どうかした?』
「今から会えるか?」
『今から?ちょっと待ってね』

携帯を握り込んだのか、音が聞こえにくくなった。
かすかに聞こえたのはページを捲る音だった。

『三時までなら大丈夫よ』
「構わない。今から行く」

そこで電話を切り、出かける準備を始めた。
リビングを覗くと、朝食を食べ終わった紅蓮が後片付けをしていた。

「出かけるのか?」
「…ああ」
「そうか。俺も出かけるけどすぐ帰る」
「分かった」
「行ってらっしゃい」
「…行ってきます」

慧斗はロングコートの裾をひるがえすと、家を出た。

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