短い夢
□騒音シンフォニー
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『スパナーっ!!』
「……………」
『ス・パ・ナぁーっ!!』
「……………」
やっぱり返事ない……。
そろそろ仕事終わりなのに、スパナったら全然聞こえてないんだから。
この騒音じゃあムリないか……
あー…スパナの場合この騒音は関係ないね、作業してる時は何も聞こえないんだもん。
あたしがここに配属された時も、全然入江様の話聞いてないで、作業が一段落して初めてあたしに気づいたくらいだもんなぁ……あんた誰?って聞かれたっけ。
『スパナー…先上がっちゃうよぉ』
「……………」
ダメだ、何も聞こえてない……。
横に座ってんのに気づかないってどんだけ集中力すごいんだよ。
それともあたしが存在感がないってか?
『スパナー……』
「……………」
『……………』
「……………」
『好き………』
「……………」
『大好きだよ……』
「……………」
聞こえてないってぇーのに何やってんだか、あたし……。
あ、スパナの飴の棒、上下に動いてる。そうとう集中してんだなぁ……。
って、棒吹き飛ばしたし……君はそれを誰が片付けると思ってんだ、誰が。
「……………」
『……………』
あーあ、転がってちゃったよ。
『ったく、仕方ないなぁ』
「……………」
スパナに背を向けた瞬間、腕を掴まれた感覚の次に自分が倒れてくのがわかった。
周りは騒音だらけだったのに、いつの間にか静かになってて…何にも聞こえなかったあたしの耳に届いたのが、ちゅ、と可愛いリップ音。
『……………』
「……………」
『っ……な、なななななな!?』
「どもりすぎ」
『な、何す…っ』
「キス」
『わかってるよ!!』
「じゃあ聞くな」
『そうじゃなくてっ…な、なんでしたのって聞いてるの!?』
あたしを見下ろすスパナは、今まで見たことない意地悪な笑顔。
「好きって、言ったから」
『……………え』
騒音シンフォニー
(聞こえてたの!?)
(聞こえてないなんて言ってない)
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