灰色シンフォニー

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何の冗談かと思って呆然としてる内に、さっさとスパナは個室から出て行ったみたいで、気づけばあたしは1人ポツンと残されてた。一体なんだってんだ。
エイプリルフールはとっくのとうに過ぎてんだぞ、冗談にしては悪質すぎる。
イライラしながら乱暴に鞄を振り回しながら、でも自分の命よりも大事なサックスは丁重に背負う。言い過ぎだろって言われても、本当に命より大事なんだ。少しでもぶつけたらサックスに謝るくらい、病的だなコレ。んで、ズカズカ歩く。ホントに女か?って聞かれても自分でも返答に困るくらい、もうズカズカ家に向かって歩いてる。





でもイラつきながら歩いてく内に、だんだんスパナの言葉を思い出して不安になってきた。だってあんな顔して2人暮らしやめよう、とか言い出すんだもん……。




『本気で言ってんのかな……』








いやいや、んな訳ないっしょ。
だってスパナどこに住むってのさ。おじさん達転勤しちゃってんだよ?友達のとこ泊まるったって、いつまでも泊まらしてもらえる訳ないんだし、どっか家借りるとかも無理な話じゃん?
とりあえず悪い方に考えるのはやめよう、うんそうしよ。帰ったらいつも通り、おかえり、って言ってくれるよ、絶対。






























でも、そんな期待は家に入る前に打ち砕かれた。
スパナの家に電気が点いてる。


『あ、そっか…家の鍵くらい、持ってるよね……』


は、はは…あたし、バカみたい。
そんくらいちょっと考えればわかることなのにさ、ホント馬鹿みたい。
自嘲しながら家のドア開けると、広がるのは真っ暗な空間。もう、おかえりって言ってくれる人は、スパナはいないんだ。


『……寒い』


真っ暗な部屋は暗くて寒くて、リビングからは緑茶の匂いも飴の匂いも、スパナさえ…どこにもいなくて、ただぼんやり立ち尽くすしかできなかった。


『うちって、こんなに広かったっけ……?』


ありきたりな言葉が、更に現実を突きつける。







君がいなきゃ
ただの穴


(スパナの声が聞きたい)


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