短い夢
□鏡花水月
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言葉にすることはできねぇ―……
目の前を歩く女。
何年か前までは並んで歩いていたのに、今のオレは並んで歩くことはねぇ。
『獄寺って歩くの遅いよね』
「バカか、お前。後ろにいた方がどこから狙われててもすぐに気づけるんだよ。上からでも、後ろからでも対処しやすいんだ、そんくらいわかれ」
『言い方きつー』
アイツが笑いながら隣を見れば、少し苦笑まじりに振り返る。
「そんなこと気にしなくていいのに。並んで歩こうよ」
「そういうわけにはいきません、十代目」
オレにはもう、2人と並んで歩くことは出来ねぇ。
並んで歩く
たったそれだけのことが、オレにはもう出来ねぇんだ。
オレ達の仲間の1人だった。
なのに、いつの間にか仲間から
十代目の恋人―……
10年間、想い続けた奴。
もう、届かない。
言葉にすれば思った以上に簡単に届くかもしれねぇ。
だが、十代目の右腕のオレが……、十代目を裏切るようなことは出来るわけもない。
手を伸ばせば、触れられる距離
触れたら、衝動は止められねぇ、
言葉にしちまう……
すべて、
壊れるんだ―………
瞳に映すだけ、
それしかできねぇ、
「行きましょうか、十代目」
「う、うん」
目の前にいてくれさえすれば、
『また後ろぉ?』
「うっせ」
それ以上は何も望まねぇよ―……
鏡花水月
その手には触れられぬ
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