月に願いを

□出逢い
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情報を頼りにジョットと森の中を歩き回って早30分が経とうとした頃、随分と物騒な言葉を並べる奴らの声が聞こえた。姿は見えないが、恐らくオレ達が探してる奴らだろう。
その声の方へと向かおうと、道から外れ木々の中へと足を踏み入れた時、何かの気配を感じた。動物くらいいるだろうが、そんな小さなものじゃなく、もっと大きなものだ。だが、熊の類とも違う。
それに、この気配の持ち主は気配を押し殺そうとしてる。


「………、何かいるみてぇだな」

「あぁ、そうらしい」


ジョットも感づいたようだが、この気配はどうも弱々しい。



もしかしたら、オレ達が探してるもうひとりの人物かもしれない。



茂みの中を掻き分け、あえてその人物にオレ達の存在を示すように近づいた。
すると、茂みに隠されたその者は大木に凭れて、乱れた息を顰めるように蹲っている。


『なんだ……、アイツらじゃないのか』


オレ達を見上げるその少女は、少し気の抜けたように息を吐き出した。
だが、真っ直ぐオレ達を見上げるその視線は凍るように冷たく睨むが、それでいて殺気はまるで感じられない。
それどころか、生気すら感じられず、今にも消えてなくなっちまいそうな……、そんな、脆さを感じさせるほどに小さな少女。


「お前……、ルナ・ノッテだな?」

『知ってるんだ……?何、お前らもあたしのこと殺しに来たわけ?』


お前ら、ってのはさっき怒鳴ってた奴らのことか。
今更だが、こんな子供を大の大人があんな大人数で追い回してたなんてな。情報じゃもう何年もアイツらはこの女を……、ルナ・ノッテを追ってたらしいからな。まだ子供だってのに壮絶な人生を歩んできたんだな。
あの凍るように冷たい青い瞳も、その所為ってわけか。


「いや、そうじゃない。オレはジョット、こっちがG。君を探してたんだ」

『探して殺そうって?』

「違ぇって言ってんだろ?」

『あたしを殺そうって奴らは他にもいる。今更そういう奴らが増えたって驚きもしない。次は一体どこのマフィア?』

「だから違ぇって言ってんだろ?オレ達は自警団だ」

『とうとう自警団にも狙われるようになったってわけ?』


コイツ、話を聞くつもりねぇな……。
まぁ、それも仕方ねぇ。散々命狙われてきたんだ。急に目の前に現れたオレ達を自分の命狙ってきた奴らだと思っても仕方がない。


「正式にはオレ達はまだ自警団じゃないんだ。これから立ち上げるつもりなんだ。とりあえずオレ達の話聞いてはくれないか?」


近づき差し出したジョットの手を叩き払ったルナ・ノッテ。
やはり殺気は感じられねぇが、敵意剥き出しなのも変わらない。怯えはないが、どこか諦めたような瞳の奥からは怒りが感じられる。
叩き払われた当のジョットは相変わらず穏やかな笑みを浮かべていて、一切表情を崩さなかったこの女は面食らったように、一瞬だけ目を見開いた。


『っ……、何だよ。殺すならさっさと殺せばいいだろ!!お前らに大人しく殺されてやるって言ってんだよ!!あたしみたいなのが生きてたらいつ殺されるか怖いんだろ!?殺せよっ!!』


逆上して怒鳴るコイツに何言っても聞きゃしねぇだろうな。それより、この声聞いて奴らが戻ってこねぇともいえねぇしな。そうなると面倒だ。


「………、ジョット」

「………、あまり手荒なことはするなよ?」

「わかってる」


オレの言いたいことがわかったのか、ジョットは仕方ねぇといった感じで溜め息を吐いた。
長い付き合いだ、言わずともオレが何をしようとしてるのかなんてすぐにわかる。手荒なことはするなつっても、オレにだって手加減くらいできるっての。


「もう1度言う。オレ達はお前を殺す気はない」

『うるせぇな……っ、そうやって殺そうとしてきた奴らだっていた。お前らのことなんか信じられるか!!』

「はぁ……、仕方ねぇ。少し黙ってろ」


最後の忠告として一応言ってはみたが、やっぱりムダだったようだ。
腕を引いて細く華奢な身体を引き寄せた瞬間、長い金髪から見えた白い首に手刀を浴びせた。ぐらりと落ちる身体をそのまま腕の中におさめ、ひとつ息を吐く。


「口の悪ぃ奴………」


担ぎ上げた身体は思った以上に軽く、伸ばしっぱなしの髪とお世辞にも綺麗とは言えない格好に、コイツの今までの生きてきた壮絶な人生のほんの一部分が見えた気がした。





遠い
未来のための出逢い


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