チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】
□act12
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またいくつかの時間帯が巡り去ってしまう。
マシロはいつかのようにベンチに腰を下ろして項垂れていた。
なんだか疲れてしまった。
そう思ったらやりきれなくなってしまい、自分の行動が無駄に映えてならない。
今日も今日とて探し回っても失せ物は見つからず、虚無感に重いため息を吐く。
胸に穴が開いたような物足りなさとわびしさを覚えていると、レンガ調の地面を映し込む視界に白いシューズの爪先が紛れ込んだ。
派手なストライプのソックスを纏うしなやかな両足は当たり前のように見慣れたものだった。
「こんにちは。久しぶり……かな?」
心底逢いたかったけれど、心底逢いたくなかった甘美な声が鼓膜に優しく触れる。
マシロは視線も上げず、噛みしめた奥歯を緩めて苦渋のままに呟いた。
「ボリス……さん」
「こんにちは」と言い返せば、苦笑が伴ったため息が聞こえたけれど、マシロは努めて「何か御用でしょうか?」と問いかけた。
「いやね、最近あんたと逢わないからさ……俺のこと避けてんのかなーって思ったんだけど」
「用がなかったので……では、私はこれで失礼します」
解りやすいくらい退場を試みようとするマシロに、ボリスはやはり苦笑してしまう。
それから重い腰を上げて立ち去ろうとするマシロの前に回り込んで俯き加減の顔を覗き込むのだった。
「……ッ」
咄嗟の拒絶反応のまま、大袈裟なまでに顔ごと上体を逸らしてしまう。
「なーんでそう避けるかなぁ?」
「……忙しいので」
「ふぅん……」
その相槌はどういう気持ちで打っているのかと気になってしまったマシロは、ボリスを盗み見て、そしてやはり後悔してしまった。
いつもみたいに品定めするような視線ではないものの、面白いものを見つけたようなそれを認識した途端マシロは顔を歪めてしまう。
ボリスはチェシャ猫のような笑みを浮かべながら、足早に逃げ去る後ろ姿を見送っていた。
マシロが振り返ることはなかった。
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