チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】

□act9 チェシャ猫とシンデレラ
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●俺の好きなもの(ボリス=エレイの場合)





時間は少し遡る―――


ボリスを知りたいと言ったマシロはあの後、彼の部屋に招かれることになった。
ピンクと黒で暴力的に飾り立てられたメタリックパンクの室内は、一度訪れたことがあるボリスの部屋そのものだ。
なぜクローバーの国をまたいで弾かれた遊園地にいるのかマシロには解らない。
適当なドアを開ければ、その向こう側はボリスの部屋だった。そうとしか言いようがなかったのだ。
マシロは、玩具のように散らばっている銃の中心でぺたりと座り込んでいる。
両手で支え持つマシンガンを天井に掲げていろんな角度から観察していた。


「あんただけだぜ、俺のコレクションに触らせんのは。特別だから」


両手で頬杖をついてごろっとしていたボリスが目を輝かせてマシロを見上げている。
煌々とした黄色の宝石に映るのは、眉をひそめて怪訝な視線を投げかけてくるマシロの顔だった。


「そんなこと言って……前に作っていた女の子にも同じこと言ったんじゃないの?」

「ないよ、そんなの」


妬いてくれてんの?
そう言ってからかってやれば、ほんのり色づいた顔を誤魔化すようにマシロは鼻を鳴らした。
「別に」と一蹴してから、視線を彼のコレクションに戻す。さすが『本物』と言うことだけあってか、鉄の塊を支える腕に重力が圧し掛かる。
徐々に下がってゆく両の持ち手を、抱えるように持ち直した。


「重い……」

「撃ったら反動で身体にガツンとくるぜ」

「ボリスはそんなの扱えるんだ……すごい」

「俺だって撃てないよ」


まじまじと銃身を掲げ持つマシロは咄嗟に顔を上げてしまった。なにせボリスの顔がすぐ傍にあるのだから。
すぐ傍らで寝っ転がっていた筈なのにいつ間に? 息遣いすら感じとれてしまうほど男の接近を許してしまうとは、我ながら鈍いというか警戒心が足りないのか……。
マシロに急接近したボリスは、自慢のコレクションをうっとりと撫でながら溜息を漏らす。


「これはガタイ良くないと扱えない。それにかなりの確率で暴発する代物だからさ、やらかした時格好がつかないよ。こいつが惨めになって可哀想だろ?」

「へぇ……こだわるんだ」


銃に対して申し訳ないと思う感情は理解できないけれど、コレクターならではの発想とでも言うのか。
愛する銃をしげしげとなぞっていたボリスのしなやかな指先が、とある部位を引っ掛けた。
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