チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】

□act9 チェシャ猫とシンデレラ
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両手の指先でチェーンを抓むと天井に向けて掲げ持つ。
ハート型のリングが窓から受ける日差しをきらきらと反射させている。


「綺麗……」


パールピンクに輝くペンダントヘッドを映す瞳は魅了され、囚われていた。
マシロはほぅっと息をついてから再度ボリスを見上げる。


「本当にいただいてもいいの?」

「ていうか貰ってほしいんだけどね」

「ありがとう、ボリス」

「ね、早く着けているとこ見せてよ」

「はい」


真摯に頷き、それからネックレスの留め金を外して鎖を首の後ろに回す。
しかし、引き輪と留め具がなかなか引っ掛からず、苦戦を強いられてしまう。
それを見かねたボリスが小さく笑うと「不器用だね」と言って、マシロの首の真後ろに指を伸ばす。
ネックレスはあっさりと繋がった。


「ありがとう。ボリスは器用なんだね」

「猫だから当然だよ」


ボリスはそのしなやかな指でチェーンを引っ掛けるとリングをくいっと持ち上げる。
ハートのペンダントヘッドを見つめる蜂蜜色の甘い視線は心から満足そうだった。





ねえ、知ってる?
首飾りのプレゼントは恋人を束縛したい強い気持ちの表れってことを……。
首輪がお好みじゃあないならその代用品としてこいつがおあつらえ向きだろ?
これでもう他の男と居たって俺のことが気になって気になって仕方ないよね?
誰が見ても拘束具と解かるものより、あんたの気持ちが重要。受ける愛情への後ろめたさだって利用してやる。
どんな気持ちだっていい。あんたの心すらも俺でいっぱいにしたい。
でもさ、願わくば早く自分の『気持ち』に気付いてほしい矛盾もあるんだよ。





「お返し。期待してるよ、マシロ?」


ボリスは満面の笑みでマシロにそっと口づけた。










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