チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】

□act9 チェシャ猫とシンデレラ
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●おしゃれ


「かっこいい」


マシロは思わずうっとりと息をついてしまう。
現在、ボリスはグレーとピンクのかったグラデーションの作業着を着ていた。
かつて駅に住み着いていた時に身に着けていたという仕事着だ。
その姿を是非見たいと言ったマシロのために、こうしてお披露目会をすることになった。
ボリスは帽子をくいっと上げてポージングを決めるとマシロは小さく二回拍手した。


「気に入ってくれた?」

「はい。とても素敵」


マシロが甚(いた)く讃頌するものだからボリスも気を良くしてしまう。
尻尾の先が揺れて、魚を模した金色のアクセサリーがしゃらんと鳴った。
マシロの視線が、ボリスないし仕事着から離れてそちらに向く。


「ピアス……」

「ん?」


なぜそこで捕食対象であるネズミの名前が出てくるのかとボリスは訝しんだ。
そんなボリスの表情にマシロは苦笑して窘める。


「違うの。尻尾についているでしょう?」

「ああ、これか」

「ボリスはお洒落さんね」


賛美に賛美を重ねられたボリスは嬉しくてふふんと鼻を鳴らす。
しかし、次の瞬間のことだった。


「本当に……不良みたい。何着てもちゃらちゃらしているって言うか……」

「それ偏見だろ!?」


上げるだけ上げて落とされたボリスはがっくりと肩を落としてしまう。
感情と連動した尻尾も揺れてアクセサリーがまた音を奏でた。
依然それをじっと見つめていたマシロが好奇心のまま素直に尋ねる。


「おへそにもピアスしているけど……大丈夫?」

「ああ、ボディピアスね」

「なんか……痛そう……」


というか十中八九痛いだろう。
痛いに決まっている。むしろ、痛くない筈がないではないか。
そんなことを考えてしまったら、お腹がきゅうっとした感覚に見舞われる。
居心地の悪さに腹部を軽く押さえていると、ボリスは指を鳴らして提案した。


「あんたも付けてみる?」

「えッ!? い、いや、私そういうのはちょっと……」

「お揃いにしようぜ!」

「ややや! あのあのちょっと!?」

「ついでにタトゥーも入れてみよっか?」


獣の姿勢でマシロににじり寄るボリスは、大層楽しそうな笑みを浮かべている。
マシロは先刻から背中をベッドの側面に預けてカーペットに座っている体勢だった。
後ろはもちろんのこと、左右に逃げるのにも分が悪すぎる条件下である。
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