チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】

□act9 チェシャ猫とシンデレラ
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●プレゼント



「はい」


その一言と共に差し出されたものは、赤いリボンで飾り立てられたピンクの小包みだった。
マシロは、掌サイズの四角いそれを受け取ると送り主であるボリスを見上げた。


「私に?」

「見せびらかしてどうすんの?」

「そっか……ふふ、ありがとう。開けてもいい?」

「あんたにあげたものだから好きにして」

「……また首輪のプレゼントだったらあなたに付けて市中引き回しの刑ね?」

「閉じ込められるのはOKで手錠と首輪は駄目ってどういうことだよ……」

「他人の目があるのとないのとでは大分違うよ……」


空間を切り取られたこの一室に同棲してから一体何時間帯が経っただろうか。
マシロは特に苦を感じることもなく、この生活に馴染んでいた。
元々インドアな性格だったし、城に滞在していた頃も生まれ育った世界に帰った後も引きこもりライフを送っていたのだから、不自由を強いられているとは思わない。

読んでいた分厚い書物を脇に退けて、包みを掌の上でころころしたり、指先で弄ったりしながら観察するマシロの仕草にボリスは半ば呆れて拍子抜けてしまった。


「順応性低い割には慣れたもんだよね」

「性格なの。それともボリスは監禁されて泣きじゃくりながら抵抗するか弱い女性像でも期待した?」

「それはそれで興奮するけどヤダ。愛情を否定されてるみたいだろ?」

「愛情……ぷっ、あはははっ……!」


ボリスの言葉を反芻すれば、堪えきれず笑いが噴き零れてしまう。
口元を押さえて笑いを押し殺そうと試みるマシロに、ボリスは少しむくれた様子で眉をひそめた。


「なにがおかしいんだよ?」

「だって……すごく屈折した愛情なんですもの……!」

「過激な方がハマると思わない? ああ、私はこんなに愛されているんだなってさ」

「そうだね……ふふっ、愛が重いなぁ……」


マシロは嬉しそうに小さく笑うと手の中にあるプレゼントのリボンを解き始めた。
包装紙のテープを一枚一枚剥がして丁寧に開いていると……


「嬉しくなかった?」


ボリスが不満そうに問うものだからマシロの指先は静止してしまう。
顔をあげて眼付きの悪いそれがボリスを映す。


「嬉しいよ。嬉しくないわけないじゃない。変なボリス」

「えぇー? でももっとこうバリバリーってなんないかなぁ?」

「えぇ……こんなに綺麗にしてもらっているのにそんなこと出来ないよ」

「あんた変だよ」

「……ボリスが変」


ここでも価値観、と言うか風習の違いが出てしまうのか。
ボリスは大層不満そうな顔で、苦笑をこさえながら桃色の薄紙を花のように開いてゆくマシロを見ていた。
マシロは露わになった小箱の蓋を開けると……


「わぁ……!」


感嘆の声があふれ出てしまうのだった。
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