チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】
□act9 チェシャ猫とシンデレラ
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俺が知ってるマシロ=クルスのこと。
気弱で根暗で自己否定が強烈な女の子……いや、もう女の子って歳でもないのかな。
ま、この世界に年齢は在って無いようなもんだし、どうでもいいけどね。
スピード系アトラクションは苦手で、いつも難しい本ばっか読んでいて、ああ勉強熱心だなって思いながら見ていた。
それから家族構成。
大好きな姉ちゃんが居ること。家出癖のDV弟が居ること。
親父さんとおふくろさんについては何も聞いてない。
……多分、姉ちゃんは死んでいて、そのせいで心を極端に病んでしまってる。
●私の好きなもの(マシロ=クルスの場合)
「俺もあんたのこと知りたい」
―――好きな人の知らない部分を知りたいと思うのは普通だろ?
ボリスは床に散乱するコレクションを片付けながら、傍らで正座を崩した体勢でいるマシロに問うた。
マシロは記念すべき"ガンデビュー"からようやく立ち直ったばかりである。
「なにを知りたいの?」
「なんでも。俺のことも聞いたじゃん」
「そうだね」とマシロは思慮深く頷く。
顎に指を添えて真剣に考えている様子で暫しの間が経つ。
それから口を開いた。
「私ね、本が好きなの」
「うんうん。いつも読んでたよね」
「童話とか……好き、かな」
照れくさそうにまつ毛を伏せるその表情に、ボリスはニヤニヤしてしまう。
「へぇ。可愛いとこあるじゃん」
「ホラーとかも好きだよ」
「意外」
気のせいだろうか?
特定のジャンルを口にしたマシロは心なしか浮き立っているようにも見えた。
「遊園地のアトラクションではね、スピード系は苦手。ほのぼの系はそんな好きでもなかったり」
「あ……そうでもないのかよ……」
遊園地に遊びに来て一体何を楽しむのだろう。
ボリスが首を傾げていると、マシロはとてもわくわくした口調で「でも」と続きを紡いだ。
「オバケ屋敷……ホラーハウスは好きなの」
「あー……そっち系か。暗いね」
「そう?」
解せないのか、マシロも小首を傾ける。
それから正位置に戻して己の嗜好趣味を吐露するのだった。