チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】

□act8 可愛い女と呼ばないで
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「はぁ……あの頃のナイトメア様は子供ながらに真面目だった。今よりも」

「あんたもやんちゃしてたろ? 暗殺しに来たのか世話しに来たのか……暗殺者として世話ないよ」

「暗殺者……転職前ですね!」


まるで今が駄目みたいな言い方で強調するグレイ。
そんな蜥蜴の過去を暴くボリスを見つめるマシロの眼はうっとりとしながら話を聞き入っていた。
そして一拍後、素直な疑問を抱いてしまう。
遊園地では居候だったが、駅での待遇がまさか、ああだなんて……。


「それでボリスは……駅に住みこむホームレスだったの?」

「え゛っ……い、いや、俺はエンジニアしてたよ……?」

「……真似事だろ。汽車の改造してからに」

「……ぷっ」


夢魔が額を抑えて、蜥蜴が小さく笑いを零す。
そこだけ空間を切り取ったように仲睦まじい二人に安心したのか、グレイは目を細めてほっこりしていた。


「おまえとマシロはうまくやっているようだな」

「マシロ……本当にグレイを紹介しなくていいのか?」

「は? 自己紹介なんてとっくだろ?」

「ではなくてグレイの嫁―――」

「わわわっ! ストップ! ストーップ!」

「……夢魔さん、今なんて言おうとしたの?」


訝しむボリスが、苦笑を湛えるナイトメアと彼の言葉を遮るマシロに問う。
マシロは至極慌てた様子で取り繕うことに必死だった。


「な、なんでもないの! ナイトメアさんがトチ狂っただけ!」

「マシロ……君って子は……」

「だってだって! あなた今なんて言おうとしたの!? いや言わなくていいから黙ってて!」

「本当に? 何か隠してんじゃ……」

「本当本当本当に本当! ねっ? ナイトメアさん!」

「―――んぐっっ!?」


あからさまに取り乱すマシロはナイトメアの口に焼売を次々放り込んでゆく。
やはり怪訝な表情のボリスと相変わらず自分の知らないところで外堀を埋められるグレイが疑問符を浮かべてナイトメアとマシロを見守っていたその時だった。


「猫君と違って蜥蜴さんはブス専じゃあないだろー」


この場に招かれてない第二者の声が割り込んだのだ。
いつもであれば、毒を毒と思わせない爽やかなトーンのままで解りやすい悪意を投じた。
視線が彼に注目する。


「エースさん……」

「やあ、マシロ。四人で楽しそうだな」

「は、はい、楽しいです……あの、エースさんはなんでここに……」

「どうせいつもの迷子だろう」


困惑しているマシロにグレイは言った。
エースは蜥蜴の言葉を訂正するように笑みを繕う唇を開いてゆく。
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