チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】
□act8 可愛い女と呼ばないで
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如何にも高級そうなレストランで―――
四人の男女が上等な赤いテーブルクロスを被せた丸テーブルを囲っていた。
テーブルの上には異世界にもあったのだろうかと思わずにはいられない中華料理がバリエーション豊かに並んでいる。
男女―――ナイトメア、グレイ、ボリス、マシロは各々好きなものを好きなだけ自分の小皿に取り分けていた。
「……って、何故チェシャ猫まで紛れ込んでいるんだ!?」
「監視」
「おまえは嫉妬拗らせすぎ!」
憤る夢魔を他所にチェシャ猫は両手を肩まで上げてやれやれとアクションを決めてくれた。
「夢魔さんさぁ……なにマシロに浮気させようとしてんの? あんたもだよ、マシロ?」
「う、うーん……ナイトメアさんがどうしてもって言うから……ね?」
「……ほら。やっぱ夢魔さんが悪いんじゃん。間男」
「マシロ!? 私を売ったのか!? 恩知らずな……っ」
同じ釜の飯を食う場所で何やら修羅場に興じている黄昏時の食事風景。
そんな三人に交わらずにいたグレイは冷静そのものだった。
「ナイトメア様、略奪愛は後ろから刺されますよ。マシロ、君はもっと食べなさい」
「グ、グレイさん、私そんなには……」
「不健康な顔色だ。まるでナイトメア様のようで見ていられない。ちゃんと食べているのか?」
「お、女の人は痩せている身体に憧れるものです!」
「いや、骨になられたら俺はどうすればいいわけ?」
「はぁ……よそってあげよう」
「じゃあ俺がマシロに食べさせてあげる」
「お、おまえたち甲斐甲斐しいな!?」
マシロの皿にエビチリを盛るグレイと、それを箸で摘まんでマシロの口元にもっていくボリス。
お節介な――かたや裏の在る――ふたりの手厚い"介護"にたじたじのマシロのその向かいに座るナイトメアが溜息を吐く。
そんな呆れてしまった夢魔の言葉をチェシャ猫がすくいあげた。
「甲斐甲斐しい? まぁ、夢魔さんの面倒を見たこともあったからね」
「そうなの?」
ボリスの言葉に素朴に聞き返すマシロの顔はきょとんとしていた。
純粋な疑問だ。ナイトメアとボリスにそんな接点があったとは知らなかったのだから。
「うん。ダイヤの国に居た頃とかさ。俺、勝手に駅に住んでたんだけど……夢魔さん、駅長さんだったから」
「ダイヤの国……駅長さん……」
聞きなれなれない単語を反芻するマシロの右隣の席に着いていたグレイが長いため息を零す。