チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】
□act7 ボリスキャット
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「手錠とはまた……高度なプレイですね」
「遊び(プレイ)じゃないぜ。本気(ガチ)」
「ま、街中で……!?」
「恥ずかしい?」
「と、当然!」
「見せつけてもいいんだけど……じゃあ、はい」
ボリスはチェシャ猫のように笑ってそう言うと、二人を繋ぐ鎖の上にスーツの上着をかぶせる。
彼にしては譲歩してくれた方なのだろうが、もし輪が両の手首にかけた状態でこのシチュエーションだったのなら……
「これ報道ニュースで見るやつ!」
「んー? 全国放送の公開プレイとかヤバいじゃん?」
「穴に入りたいってレベルじゃない!」
ボリスが腕を上げると否応なしにマシロの腕も上がる。
繋ぎ留められた手錠を恍惚と目を細めて眺めていたボリスだったが、指を鳴らして突然閃いたアイディアを提示した。
「決めた。俺、あんたの飼い猫になる」
「えっ!?」
「飼ってよ、マシロ」
「……飼い殺しにされるのは私だったのでは……?」
「あんたの猫になりたいんだ」
「……ボリスはサドの人なの? マゾの人なの?」
「あんた相手ならどっちだってイケる! ケースバイケースだよ」
だからあんな猫より俺を触って。
てか今あいつにしたことをやってよ。
次々に要求を突き付けてくるボリスはとてもわくわくしていた。
興奮気味な様子にちょっぴり引いていたマシロだったが念願の猫に触れられるチャンスに加えてボリスがこんなに望んでいるのだから断る理由などあるはずもなかった。
先刻、仔猫に触れた時と同じように手を伸ばしてピンク頭に生える耳に指を這わせる。
ぴくりと弾むそれは手触りのいい感触でマシロも自然と目を細めてしまう。
「ふわふわ……気持ちいい……」
「んッ……俺、も……!」
「……あの、変な声出さないで」
「だってあんた……優しく触るんだ。アリスが優しくないとは言わないけど、あの子だったら尻尾引っ張ってたし」
「生き物に触れる力加減が分からないだけ」
「俺で覚えればいいよ。はい、じゃあ次は尻尾」
「待って……もう少し耳を……」
「ん。いいよ……好きに触って」
「やわらかくて……ふわふわ……っ!」
「んぅ〜〜……!」
「癖になりそう……!」
「お、俺も……」
両者とも、異なる興奮に声が上擦っていた。
道行く人々が怪訝そうな表情をして目を合わせまいと立ち去ってゆく。
そう言えば以前にもボリスの動物の部分を触ろうと試みた瞬間があったとマシロは思い出した。
与えられた城の客室のクローゼット経由でボリスの部屋に初めて訪れた時のことだった。
メタルパンクに彩られた黒とピンクの部屋は衝撃的だった。
しかし未知の世界に好奇心は止まず、部屋を物色していると寝息を立てるボリスが居て―――
好奇心は猫も殺すとはよく言ったもので、ぴくりぴくりと反応する可愛らしい耳に触ろうとした結果、ボリスが目覚めてしまい、そのまま捕らわれてしまった。
あの後は銃を握らされ、眼を見られ、キスをされ、恐怖以外の何ものでもなかったが、今はそれさえも懐かしい。
自分からボリスに触れたのは、今回が初めてではないだろうか?
なんだか照れくさくなってしまい、気恥ずかしさにボリスの目元を触れる。