チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】

□act6 忘れた夢のつづき
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「にゃんこォ? ピアス、おまえ何言ってんの?」

「マシロお姉さんは余所者のお姉さんだよ」


格下のお姉さんを相手にするのとはまた違った嘲りでピアスにそう言い捨てたのだ。
当のピアスはキョトンとした愛らしい顔で双子の言葉を反芻するのだった。


「余所者?」


拾った単語にまたうーん、うーんと考え込んでいる。
答えを導き出すことができたのは、彼としては上出来だっただろう。


「マシロが余所者? 余所者の女の子……マシロ……あっ!」


喉に出かかった違和感の正体を知ったピアスは、自らが空けたマシロとの距離を詰める。
両手を取られたマシロは、何が嬉しいのか大層破顔一笑するピアスの行動にたじろいでしまう。


「君っ、君だったんだね! マシロ、マシロ♪ 余所者の女の子♪」

「え?」


マシロ、以下三名が疑問の声を零した。
そんな皆の反応に気が付いた素振りを見せないピアスは、まるで旧知の友に再会したとでも言うようにマシロに親しげな態度をとった。


「俺ね、俺ね! また君に逢いたかったんだ!」

「ピ、ピアス君……?」


なおもマシロの名と余所者と言う単語を連呼してはしゃいでいるピアスと、困惑して彼を凝視するマシロ、そんな彼と彼女のことで話題に花を咲かせていたボリスと双子は輪を作っていた。
時折顔を上げて話題の渦中であるふたりをうかがっている。
埒があかないと輪から外れたボリスは"食材"と"恋人"に詰め寄った。


「マシロ♪ マシロ〜♪ 余所者♪ 落とし物の女の子♪」

「マシロ……何? こいつと知り合いだったの?」

「ぴっ……!?」


ボリスの存在に気付いたピアスは、それまで猫だと思っていたマシロを盾にするように彼女の背後に回る。
訝しむトパーズの瞳を向けられたマシロは首を振って両の掌でボリスを制したが、背の高いディーとダムに「どういうこと?」と交互に詰め寄られて金切り声を上げてノックバックを決めてくれた。
跳躍は鮮やかであったが背後のピアスもろとも崩れ落ちてしまう。
弱者二名は木の根元で身を寄せ合いながらそれぞれの"天敵"を怯えた視線で見上げた。


「ボ……ボリス……!」

「あわわ……っ! マシロ! 助けて助けて!」


獲物は各々の口から出た名の者に助けを乞う。そして、ここにいる誰もが思ったのだ。
とても虐め甲斐があると。

特にボリス=エレイは、ピアスもマシロにそれぞれ異なる意味で食べたいと思った。
熱いため息を吐いて甘く震えた声で己が欲を呟く。
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