チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】

□act5 ■■は迷わない
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まるであつらえたように身体にフィットする正装を纏って歩み進める。
ダークスーツの上着から覗く胸元は淡い桃色のシャツが押し上げていた。
スカートから伸びる黒いストッキングの足がステップを刻む。ヒールの低い靴が鳴る。


「似合ってるよ。どうしたの、それ?」

「着なさいって渡されて……会合に参加しろってことでしょうか?」

「俺が参加している時は当然あんたも同行しなくちゃ」

「まるで過保護な母親ですね」

「俺の目に入るところにいないとね」


目を離した隙に居なくなった前科があるのだからマシロは何も言えなかった。
何も言わずにいたかったが、それはボリスの言葉で成し崩れてしまう。


「……本当は誰の目にも留まらない何処かに隔離したいんだけどね」

「わぁ……なんてイカレたことをしれっと……」

「そしたら俺の声、好きなだけたらふく聞かせてあげる」

「…………」


意味深な発言に真っ赤になった顔を俯かせた。


「まあ、でも譲歩して首輪繋げるくらいのことはしないとね!」


「にゃははは」とあの独特の笑い声にマシロは苦笑を禁じ得ないでいた。


「お姉さん」


笑顔が引きつった顔を上げたのはほとんど反射的だった。
名指しで呼ばれたわけでもないのに反応してしまったのは如何なる訳か。


声がしたのは正面からで、二人分の影が立ちはだかっていた。
背格好すらも差異のない双子の青年達が、無邪気な笑みでこちらを見ている。
マシロと同い年か、少し年下くらいだろうか?
ボリスよりも高い背は190センチ近くあり、割とがっしりした体躯にスーツを着こなしている。
ひとりは前髪にピンを差し、ひとりは後ろ髪をひとつに束ねている。
かっこいいなぁ、と思いつつ、マシロから表情が消える。


何かの勧誘かな?
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