チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】

□act4 甘い砂糖菓子のような悪夢
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「君も。他人を不審がるのは分かるが、そんなに警戒しないでくれ」

「…………えっと」


視線でナイトメアに助け舟を寄越すが、彼は大層嬉しそうに破顔してくれただけである。


「マシロ! こいつが私をえらく尊敬しているグレイだ。なかなかの男前だろう?」

「グレイ=リングマークだ。マシロ、君のことはナイトメア様より伺っている。大変な思いをしていたようだな」


その名を聞いて、マシロは眼を見開いて顔を上げるのだ。
この時、初めてグレイの顔を見た。彼は爬虫類然とした瞳を優しげに細めている。


「あ、あなたが……グレイさん?」

「いつもナイトメア様が世話になっている」

「こっ、こちらこそ! ナイトメアさんがいつもご迷惑ばかりお掛けして……!」

「……私をなんだと思っているのか」


至極納得いかない様子でナイトメアが、不肖の上司――あるいは恩人を譲り合っている双方を交互に見比べてひとりごちた。
場面としてはグレイがマシロに握手を試みているところである。大きな男の手のひらを凝視していたマシロが、おずおずと手を伸ばしてそれと重ね合わせた。


「君は相当苦労しているようだな」

「え? いえ……そんなことは」


それはどういう意味であろうか?
グレイの言葉の意図を探るマシロはナイトメアを盗み見る。
片方だけ露出している灰色の視線と重なるだけで、彼は何も言わない。


「今後はナイトメア様と共に君の力になれるように努める。……君に会えて俺は嬉しいよ」

「わ、私もです。ナイトメアさんからグレイさんのこと、聞いていましたから……」


心強い人だ。マシロはそう思った。単純にかっこいいとも。
とても誠実で勤勉なまでのその真面目さは、マシロが理想とする大人の男性そのものであった。


「夫にしたくなったか?」


ナイトメアが意地悪な笑みを浮かべて冗句を言ってくれた。


「私は本気だよ」

「ナイトメア様? いったいなんのことですか」


キョトンとしていたグレイに気まずくなったマシロは俯いてしまう。


(……そんなんじゃない)


それまでからかっていたナイトメアの表情が途端に引き締まると、マシロに確認するように問いかける。


「マシロ……君は望んだから、この世界に導かれた。分かるかな?」

「はい」


小さな声で、けれどしっかり肯定するとナイトメアはまた嬉しそうに破顔するのであった。


「ではマシロ。私の塔に滞在しなさい。案内させるから好きなように使っていい。鍵はしっかり掛けておくんだぞ」










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