チェシャ猫と愛に生きるトロイメライ【2】
□act20 サイカイ
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「鬱陶しいのが駄目ならあざとくにゃあにゃあ言っても駄目なんですからね。そこにお座りなさい」
「そう言ってまーた犬扱いかよ……」
「機嫌直してよ、冷たい飲み物と、ご本を用意してあげるから。ね?」
「本じゃ代わりになんないよ!」
「私が読んで聞かせてあげるから。ノンタンと100万回生きたねこどっちが良い?」
「もう一回言って」
「ノンタンと100万回生きたねこのどれにする?」
「最初のやつだけもう一回……」
「もうっ、熱のせいで鬱陶しくなってるよ? ちょっと待っててね」
マシロは俺の懇願をその気もなしに一蹴すると、手に持っていたシャツを干してから窓辺を離れた。
カウンターキッチンの向こうで冷蔵庫を開けたり閉めたりしているのを眺めていると、飲み物が注がれたグラスを盆にふたつ乗せてすぐに戻ってくる。
けど俺の機嫌は納まらない。
身体を起こし、テーブルにグラスを並べるマシロを恨みがましく見つめる。
それを何と勘違いしたのか、マシロは……
「何? 何も入れてやしないよ?」
「……そうじゃない」
透明感のある白い飲み物が注がれたグラスはキンキンに冷えているみたい。
曇ったグラスに水滴が一筋伝う。
「……写真消したのまだ怒ってんのー?」
「知ーらない」
「マシロが浮気すんのがいけないんじゃん」
あんなに沢山の猫の写真を……。
挙句は犬まで見境なくとっかえひっかえ。
「ネットで見つけてきただけで直接逢った子達じゃないのに」
「それでも!」
「あーやだやだ、ボリスってば心が狭いー」
「なんっ……あんたが理解できないよ! こんな地味な奴の一体何が良いわけ!?」
「うーん……っていうかボリスが好みじゃないんだよねー」
「だからなんでさらっと振られてんの俺!?」
スマホ片手に俺は慟哭する。
画面には先日、大量消去したことがマシロにバレて泣く泣く復元した猫の写真が写り込んでいる。
全部こいつらがいけないんだ!
「ふふふ、可愛いなぁもう……あっ、この猫、私が拾った子に似てる」
先刻まで俺に塩対応だったマシロが写真を見た途端に、にまにま破顔する。
浮足立った猫撫で声は俺ですら聞いたことない。
ていうかそのだらしなく緩んだ顔も見たことないよ!
「そうそう、こんな感じの毛色で耳がピンとしていて……多分、雑種かな? 確か男の子で……」
「ねぇマシロ! 聞き捨てならないぜ! あんたに飼い猫がいたなんて!」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「言ってない!」
やっぱ浮気者じゃん!
猫なら誰でもいいのかよ!?