チェシャ猫と愛に生きるトロイメライ【2】

□act10 ヒトリノ
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「別にボリスへの当てつけじゃないよ。好きなんだ……ジュリー」


あの後どういうつもりかとマシロを問い詰めたけど、当の本人はマジで悪気があったわけじゃなかった。
俺の糾弾を受けて、怒られて耳を下げる犬のような顔で「だってこういうとこ行ったことなかったから」と言われちゃ敵わない。
渋々だけど、マシロは本当にジュリーが好きってだけなんだ。ジュリー許すまじ。


気を取り直して、それから2時間フルで歌いまくる。
カラオケを出る頃には喉はからからだった。
何度咳払いしても喉の違和感は取れない。


「一雨きそうだね」


咳込んでいると、マシロのかすれた声が耳を打つ。
その一言に空を仰いだ。


「本当だ。暗いね」


空は分厚い雲のせいで薄暗い。
雲の切れ間もないくらいの空模様は見るからに不安定だった。
空ってこんなに落ち込んだり、泣いたり、怒ったりするもんなんだな。


時間帯といっしょに空も変わるあっちも気まぐれだけど、こっちみたいな独特の変化には乏しい。
昼・夕方・夜のどれかに変われば次の時間帯まで空の色調には然程変わり目は見つからない。
昇ったり沈んだりする太陽の位置関係で夕焼けが濃くなったり、昏い空が白んできたりは勿論のこと、まして雨が降るかもしれない雲行きの怪しさはそうそうお目にかかるようなもんじゃない。
こっちの世界がよっぽど気まぐれでおかしい。


「急がないと降り出すかも。ボリス、行こ」


そう言って駆けだす背中を俺は追いかけた。











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