チェシャ猫と愛に生きるトロイメライ【2】
□act10 ヒトリノ
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「じゃあ私の十八番にしよっかな」
どうやら選曲に時間をかけていたみたいだ。
決まったようでぽちぽち操作している。
「やっぱり恥ずかしいなぁ。歌はあんまり得意じゃないもん。笑わないでね?」
「笑わないって。おっさんより酷いのはありえないよ」
「基準がゴーランドさんってのもどうかと……」
苦笑いしていたマシロがマイクを取って席を立つ。
イントロが始まったのだ。
レトロな曲調と映像が合っている。
「♪壁際に寝がえりうって♪ 背中できいている♪」
マシロも出だしは上擦っていたが……なんだ、可愛いもんじゃないか。
おっさんがどうとかは置いておいて、歌声は緊張で震えているけど音程は安定しているし悪くない。
俺もリズムに合わせてノッてみる。
「♪やっぱりお前は出て行くんだな♪」
ん……あれ、これ悲恋歌?
えっ、そういうジャンル?
「♪行ったきりならしあわせになるがいいー♪ 戻る気になりゃいつでもおいでよー♪」
俺が曲の雰囲気に気づき始めるのと同じに歌詞も怪しくなってゆく。
「♪せめてー 少しはカッコつけさせてくれー 寝たふりしてる間に出て行ってくれ〜♪」
……これは……これはもしかしてメッセージ!? 俺への当てつけか!?
勝手にしやがれってこと!? あなたのお好きなようにしてくださいってここでも言うのかよ!?
「さすがにくどいよマシロ!!」
びしっと勢いよく立ち上がるとともにツッコミを決める。
アア〜アアア〜と気持ち良く歌っていたマシロも驚いていた。
歌声が止む。
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