チェシャ猫と愛に生きるトロイメライ【2】
□act9 ヤキモチ
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「あ、あのー、ボリス?」
「なーに」
「そんなに見られたら困っちゃうかなぁって……エヘ」
「困れば? あたふたしてるあんたは可愛いよ」
「ま、また可愛いって言った……っ」
だって本当のことなんだもん。
漫画の表現みたいに、頭や顔のあちこちから汗の飛沫を3つばかし飛ばしているような反応が可愛くないって言ったら、世の中なにに対して可愛いって言うんだよと小一時間物議をかもしたい。
「本当だよ。あんたって可愛い」
視線を下げていたマシロはとうとう居た堪れなくなったのか、まぶたをぎゅっと閉ざしてしまう。
そんな彼女に本日何度目か解からない言葉を心の中で送る。
「〜〜〜っ」
「ははっ、女は愛嬌ってマジそれだよな〜」
「も、もうっ、いじわる言わないでったら!」
ニヤニヤでれでれとからかうと、顔を真っ赤にしたマシロががたりとテーブルを鳴らして立ちあがった。
機嫌を損ねたのか?
今度はどこに行く気だよ!?
「そ、そんな吃驚した顔しないで……っ。ちょっと頭冷やしてくるだけだから」
「えー? またトイレで一服仕込む気じゃないよな?」
「しっ、しないわ馬鹿! もう盛る理由がないですもの!」
そう言って掌を見せるようにして腕を突き出す。
しげしげ見つめているとまっさらな掌はぱっと引っ込み、ツンと顔を背けたマシロが、
「もういいでしょ」と切り捨てるように言った。
「はいはい。せいぜいトイレの小窓から翼を生やして飛んでいかないでね」
「誰が飛ぶかっ」
びしっとキレのいいツッコミを残してマシロは席を離れてゆく。
俺はその背中に向けて小さく息をつくとテーブルにどっと突っ伏した。
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