チェシャ猫と愛に生きるトロイメライ【2】

□act8 ネギトロ
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私達が向かった先は木造の渋い外観の和食屋だった。
建物周辺はデパートの敷地内とは思えないほど閑静で緑も多い。
内装も落ち着いていて、メニュー表も達筆風だったけど写真付きだったので日本語を解読できるかどうかも怪しいボリスにはありがたい仕様だった。
ボリスは案の定お魚料理を頼み、私は喉越しが良いおうどんと抹茶アイスを頼んだ。
先刻まで女の子の視線が気になって落ち着かなかったけれど、ここは客層が高めで、若い子もそれなりにいたが大きな声で下品にバカ騒ぎする子はいなかった。
当然、普段着がパンクファッションなボリスみたいな子が来るようなところでもなかったし、本人もそれを自覚してるのか妙にそわそわしている。


「緊張しないでいいよ。雰囲気が固そう見えるだけで所詮デパート内のファミレスだもの」

「そ、そう? 初めてくる場所だから解かんない……俺、変じゃない?」

「浮いてるかどうかは解からないけど、気にしてる人もいないみたいだし、非常識なことしなければ大丈夫だから」

「あんたはこういう所が落ち着く?」

「静かな場所ならどこでも好きだよ」

「図書館とか好きそうだもんね。やっぱ騒いじゃ駄目な感じ?」

「程度に寄るかな。ボリスも常識の範囲内ならいつもどうりでいいんだよ。楽にして」

「楽……じょ、常識……ってどんなの」

「奇声をあげたり規制が入る会話をしなければ……まぁ、大声で人目を惹く言動や行動を取らなければ問題ないよ」


「普通にお喋りを楽しもう」。
そう言ってもボリスはそわそわしていて、物珍しいのか店の内装をちらちら眺めていた。

程なくして和服姿のウェイトレスさんが料理を乗せたワゴンを押してやってくる。
まだ若々しい彼女もボリスを気に入ったみたいだ。表情は解からないけど、微妙に浮足立った接客は誤魔化せない。


「きたきた! おっさかなだー♪」


先刻まで借りてきた猫同然だったボリスの様子も一転する。
掌をぱちんと合わせて元気よく「いっただきまーす」とか言っちゃって……ボリスは可愛いなぁ。
ボリスを見ているとこっちまで元気になりそうだ。彼に続いて言った私の「いただきます」は静かだったけどね!

白いうどんをずるずる呑みこむ。
ボリスは美味しそうに食べていた。
ネギトロ丼を美味しそうにかき込んで……
イギリス系異世界人なのに生魚はOKなの?というツッコミは無粋よ。
猫のトロちゃんだって寿司ネタのトロが大好物だったし、ボリスだって昨日食べれたんですもの。
昨日教えただけの箸の使い方も器用なだけあってすぐ使いこなせた。
今もこうしてネギトロ丼食べてるし無問題、無問題。


えっ? 猫にネギ?
ああ、うん。やっぱり何も問題ないみたいだね。
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