チェシャ猫と愛に生きるトロイメライ【2】
□act3 カタライ
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「その様子じゃ、何か気に入った一曲があったみたいだね」
「これいいね。好きかも」
タイトルが解からなかったので、印象的だった歌詞を口ずさむ。
「ああ、それかっこいいよね」
と、妙に弾んでる声にちょっとムッときた。
「ここにいた間ずっとこいつらの歌声聞いてたんだ」
「ちょちょちょちょ、なんでそこでジェラシーゲージ上がるの!」
「耳消毒するから後でおいでねー」
「うぅ……また齧られる」
一曲目も男の歌だったし、募る妬みもあるものだ。
「俺のことちゃんと好きなんだよね?」
「好きだよ?」
「なんでそこで疑問形になるんだよ!?」
「"ちょっと嫌な訊き方だったから肯定したら君はどう出るの?"という意味合いで答えただけ」
他意はないと、やや唇を尖らせるマシロの返事はとても不機嫌げだった。
「どれくらい好き?」
「好意は重さでは測れないよ」
「大さじ一杯分とか地球ひとつ分とかそんなんでいいから」
「世界を丸ごとひとつあげたくなる程」
「スケールでかいね」
「身も心もこの命すらもあげられるんじゃないかって思えるくらいには好いてるつもり」
「それ、前々からあった傾向じゃん」
つまり、マシロ自身が気づいてなかっただけで、俺がそんなマシロにも見抜けなかった想いに察するかなり前から、心は俺に傾いていたのだと都合よく解釈してみる。
思いを通わせても、相変わらずしれっとしているし、実のところよく解からないけど。
「なんでそこまでしてくれんの?」
俺への罪滅ぼし?と問えば「そうしたいから」と、いつも赤い頬をより濃く染めるからなんだかこっちまで照れくさくなっちゃう。つんと目を伏せた。
「ボリス?」
「な、なんでもない」
筆の動きを止めるマシロに平然を装った。
「俺のこと好き?」
「大好き」
「世界をまるまる一個くれるほど大好き?」
「愛してる」
「―――俺も、あんたが好きだよ、マシロ」
「……!」
動作を再開した筆が―――鉛筆の芯が小気味よく折れると、用紙を見下ろしていたマシロの顔は耳まで真っ赤だった。
「もし、俺よりいい男が現れても、ずっと俺を見てくれる?」
「あなたの上位互換には見向きもされないから安心して」
「ええっ、なにそれ!?」
「私を気にかけてくれるのはボリスくらいなものだし」
「……そうでもなかったりして」