妖精の譜歌〜The ABYSS×elfen lied〜
□Episode,9【紅と鮮血】
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右から左に過ぎ去る景色は、バチカルの緑から乾いた砂の海に変化を遂げていた。
先日訪れたケセドニアもこの砂漠の何処かに在るのだろうが、生憎砂漠を歩いた事もないカマラはそれがどこにあるのかは分からない。
カマラは何をするでもなく、砂の大地を分厚い窓越しで見ていた。
仮面の少年――シンクが入り口を塞ぐように座っていた。
「驚きましたよ。まさかカマラがシンクと一緒だったなんて」
「私たち、どこに連れて行かれるのかな……」
沈黙に固められたこの密室は寂しいと感じたのだろう。
自身が誘拐された身を理解していないのか、イオンが口を開く。
返ってきたのはシンクの沈黙と、御門違いなカマラの言葉だ。
「安心してください、カマラ。
貴女の身はこの導師である僕が護ってあげます!」
どうしてシンクの後ろにくっ付いていて来たかは知らない。
けれど、カマラはカマラなりにこの状況に不安を抱いているのだと、イオンは思った。
「私は大丈夫!
いざと言うときはチョンパしてしまえばいいんだし」
「なんでもかんでも飛ばさないで下さい……。
貴女は、命を軽視しすぎです」
悲しそうに、けれど怒りを湛えた導師の言葉に違和感を覚えたのだろう。
カマラの眉がぴくりと跳ねる。
「イオンがそんなことを言うんだ……ふーん」
意味有り気な台詞にシンクの瞳が仮面越しに動く。
イオンもまた疑問を抱いているようだが、問い詰める機会を与えないようにカマラは話題を変えた。
「それに都合がいいんだ。
このままジェイド達から逃げられるし」
「僕達といるのは……苦痛ですか?」
「苦痛」
いかにも傷つきました。
そんな表情のイオンにカマラは遠い何かを振り返るように眼を伏せた。
「とても苦痛だよ……人はとても怖い。
ジェイドはとても怖い
「そんなことは――」
「そうだよ。ジェイドは怖いよ。
私をマルクトに連れて行ったらきっとひどいことをするに決まっているよ」
どうしてそんなことが言えるのだろうか?
イオンにはカマラの心のうちがどうしても理解できない。
ジェイドは確かに“死霊使い”と恐れられているが、付き合ってみれば頼りになる男性だ。
張り付いた胡散臭い笑みは確かに近寄りがたいかもしれないけど、それもジェイドの個性のひとつだとも言える。
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