妖精の譜歌〜The ABYSS×elfen lied〜

□Episode,6【ようこそバチカルへ・前編】
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「あははは! びしょびしょだー!」


文字通りに頭を冷やしたガイのマヌケ面を指差すカマラ。
水飛沫を浴びたのか、カマラもびしょびしょだ。


「き、君……大人をからかうのもいい加減にしないか!」

「だって……お兄さん、代わった恐がり方をするんだもん」

「ガイさん、だいじょうぶですのー?」


ミュウの気遣いの言葉を肯定するは突き出した親指。
と、ガイの前にさし伸ばされたのはカマラの小さき掌――


「ひい……」

「だいじょうぶだよ、お兄さん。お兄さんはママの仇じゃないの、みんなから聞いているよ。殺さないから安心して」


少女の笑顔で何気物騒なことを口にするカマラと、困り果てた表情のガイ。

さて、この状況をどうやって打破するか……。


「どうしたの?」

「俺にその手をとることはできないんだ」

「どうして?」


いつまでたって重ならない掌に疑問を抱いたカマラが尋ねる。
ガイは意を決して恥ずかしい弱点を暴露。


「恥ずかしながら、俺……女の人が苦手なんだ」

「え?」


返す言葉を失ってしまった代わりに、その顔に浮かんだのは理解できない疑問符だ。
それを見て何を思ったのか、ガイは一生懸命になって弁明の言葉を並べる。


「いや、勘違いしないで欲しいな。苦手なだけで嫌いって訳じゃないんだ!」


しかし、必死の弁明は届かず、無邪気に笑い飛ばされてしまうのだった。


「あははは! だから私のこと怖がっていたんだね!」


子供は残酷だ。
傷つける意図もないのに、容赦ない無邪気な言葉は鞭のようにガイを辱(はずかし)める。
かあっと顔が紅く染まるのが解る。
自力で水から這い上がると、シャツを絞ったりと、羞恥を紛らわそうとする。


「君は、残酷な子だね……」

「そんなことないよ。世の中には私よりもっとひどい人がいるんだ」


ガイの何気ない言葉に返ってきたのは、何気ない、それでいてどこか重いものを含んだ言葉だ。


「カマラ……?」

「えへへ」


ガイには、その重い響きを理解していた。
家族を奪われた殺略者に対する憎しみと殺意と哀愁は、ガイにも経験があることだからだ。


「お兄さんが一番優しい人だと思うよ」

「それは買い被りすぎだよ。君が思うほど、俺は優しくなんかない」

「できれば、殺したくないんだけどなー……」

「君がルークに牙を向ければ、俺は君に剣を抜かなければならない」

「うん、分かっているよ。ママの仇をチョンパするためには、きっとあなたのことも殺さないといけないんだ」


近寄りがたいほど物騒な会話が続く。
内容に反して、いまのところ二人の間に殺気の火花はない。
逆にそれが不穏の空気をつくるのだろうが……。

城門が開かれ、ルークが走って接近する。
背後で同じく城門を潜り出てきたのはジェイドたち。


「終わったぜ! ガイ、屋敷に案内してくれよ!」

「分かったよ。はは、まるで子供だよな」


ルークをからかうとガイは親代わりのジェイドに代わってカマラを手招くと、一定の距離を保ちつつファブレ公爵邸に向かうことにした。




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