妖精の譜歌〜The ABYSS×elfen lied〜

□Episode,6【ようこそバチカルへ・前編】
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ガイ・セシルと言えば爽やかでフェミニストなファブレ公爵家の使用人として、バチカルの淑女貴婦人に有名だ。
そんな彼は剣術の心得もあり、わが身を護るためなら他者を切り裂く事だって厭わない軍人めいた男でもある。
剣を持つ男としての経験からコーラル城、そしてキャッツベルトで垣間見たカマラの力は恐怖心をかきたてるほど、残虐性極まるものだ。

しかし、彼をここまでの恐怖を植えつけたのは、悪魔のような惨いカマラの錘を任せられたわけではないと、一応言っておこう。

彼は、世界の乙女たちに愛されていながら、そして気がない甘い言葉を囁くフェミニストなたらしでありながら、女性恐怖症だったのである。



「た、頼む! これ以上は近づかないでくれ! 何もしないから近づかないでくれ!!」

「…………」

「こ、こら、近づいちゃダメだって! 君、俺の事をからかっているだろう!?」

「お兄さん……私のこと、こわいの?」


全身を使って恐怖を再現する青年とそれを煽るようにじりじり接近する少女、凶暴ライガの背に乗っているチーグルの妙な組み合わせに、道行く人々が振り返る。


「いや、これは君がどうとかじゃなくて……」

「…………」

「傷ついたなら、ごめん……」


立ち止まり、俯くカマラにガイは傷つけてしまった罪悪感に謝罪。
頭では、あんな惨劇の芸術を編み出した少女だと解りきっているのに、俯く少女の有様はどこにでもいる少女のそれで、そのあまりのギャップに調子が狂う。


しかし、やはりカマラは残酷な少女だった……。


「えい!」

「え?――ひ!? ちょっ、うわあああっ!!!」


ガイの一瞬の隙を狙ったように、カマラの細い身体は鳥肌まみれの青年の身体に飛びついたのだ。


「い、いったい何を……! ねえ、君――ひいい!!」


小さな掌にぺたぺたと触られて、ガイは我を忘れて少女を振りほどき、逃れようとする。
が、何分焦っていたため足と足が絡みつき、噴水に勢いよく落ちてしまった。

吹き上がる飛沫のヴェールと虹のコントラストの中。
キムラスカ城出入り口に構える兵士が、きっと兜の中で呆れ返っていることだろう。
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