妖精の譜歌〜The ABYSS×elfen lied〜

□Episode,5【ジェイドと約束】
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「ぐばあ!!」

「かはっ!?」

「ひぎぃ!!」


血の帯を上げて地に落ちるは数対の剣を握り締めた腕――兵士たちは自身の身に降りかかった悪夢に気付いていないようだ。
肘から綺麗な切断面を残す二の腕と、広がりつつある紅き海に浮かぶ腕を見比べてなお、キョトンと見つめているだけ……。

その顔が、耐え難い激痛に彩る現実はそう遠くはなかったが。


「ヌおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!!」


白目を剥いて悶絶し、雄牛のように絶叫する男たちを、カマラはわずらわしげに眉をひそめた。


「うるさいんですけど」


肉と骨を絶つ音とともに、首を持っていかれたのは1番手前の兵士――


――噴水のように止まることを知らない血は、ワインのように鮮やかだ。
まるでアリエッタのお目々みたいだとカマラは思った。
今頃ダアトで何をして時間を浪費しているのだろう……。
ほんの数十分前に「いってきます」と言ったばかりなのに、今はもう会いたくて仕方なかった。


(またいっしょに暮らせないのかなあ)


思い出はなんて切ない。

過去は鎖だ。

悲鳴と絶叫が木霊する血の領域で追憶に馳せるカマラはそれを断ち切ると、男たちを見つめた。


「ひいぃっ!! こ、こっちに寄るな! 寄らないでくれぇッ!!」

「…………」


歩み寄る小さき少女に兵士は泣いて頼み込んだ。
首を失ってしまった兵士のすぐ傍らで腰を抜かしてしまった兵士の前まで来ると、彼と目線を合わせるため、カマラはしゃがみこんだ。


「ぜ、ぜんぶ、お、おま、お前がやったの、か……?

「……だったら?」

「ひいい!! ゆ、許してくれ!! 命令だったんだ! これは仕事だったんだ!!
 ディスト様が船にいる連中を皆殺しにしろって……だからっ……」

「……お兄さんも、苦労してるんだね」


無邪気な笑みとともに、兵士は両足とぶちまけられた自身の鮮血だけを残して、木っ端微塵に消し飛んだ。
その背後で悲鳴を上げかけた兵士の頭もつぶれたトマトのように弾け飛ぶ。

相次ぐ同僚の死に声を失ってしまった兵士たちの表情はきっと、綺麗な青に染まっているだろう。

うっすらと唇に笑みを貼り付けるカマラに生き残りの兵士がなけなしの勇気で悪魔のような少女に呪詛の言葉を吐き棄てた。


「ば、化け物……この化け物がアアアア!! 俺をこんなところで殺してみろ!! 俺はこんなところで死ぬなんて聞いていない!! ユリアの預言にはそう書かれてないんだ!!」


この人は何を言っているんだろう?
そんな眼でカマラは男を見つめた。


「恨んでくれてもいいよ……サルの呪いの言葉なんて、全然怖くないもん」


“腕”をしのばせながら、カマラは実にそっけなく言い放った。
だが男は、カマラの言葉も聞こえないかのように、ひたすら咆えるのだ。


「俺はこれから出世して妻を持って子を成していくんだ! 成していかなければならないんだ!! 
それが預言(スコア)だから、俺はここで死ぬわけにはいかないんだよ!! おい、化け物! ユリアの預言に反する行いをしてみやがれ!!
 お前に裁きの天罰が――」


男の行動は無謀すぎた。
だが結果としては男の運命を大きく変えた行動とも言えようか。


「じゃあ、あなたは殺さないことにしよおっと」


四本の腕は男を通過し、奥で半失神状態に陥っている男の身体を二つに裂いた。

返り血の濁流を全身に浴びながら、カマラは“腕”を引き寄せた――


「あなただけは生かしておいてあげるよ。だから赤ちゃん、つくってね」


一本の腕が男に触れる――
触れるだけで、それは離れてしまった。


「最初はちょっとびっくりするかもだけど、可愛い“女の子”だから大切にしてあげてね」


にっこりと微笑むカマラはそういい終えると、それっきり男に関心が失ってしまったのか、甲板目指して進むのだ。




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