妖精の譜歌〜The ABYSS×elfen lied〜
□Episode,5【ジェイドと約束】
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「う……ううんっ」
同位体、第7音素の集合体・ローレライ、音素振動数、超振動、フォミクリー――
音譜盤の内容は、本能のままに野生で生きてきたカマラには、もはや異国の言葉のようなものだった。
聞きなれない多くの単語、それらにまとわりつく科学的要素はカマラを知恵熱に追い込むのに、十分すぎるほどの効果を持った。
その時、安価で硬い作りの寝台は大きく揺れた。
「おわっと!?」
いや、寝台ばかりではない。
壁も床も、眼に映る全てのものが唸りを挙げて揺れるのだ。
うんうん唸って寝台の上で丸まっていた華奢な身体が飛び起きると、訳も解らずキョロキョロとあたりを見渡す。
「なんか騒がしいね……どうしたのかな?」
(どうやら奴等、この船ごと俺らを抹消する気のようだ)
「奴らって誰のこと?」
(六神将)
この騒ぎにとくに臆することなく、優雅に寝そべるライガの兄は
場の数を踏み切ってしまった長官のようだ。
そんな兄と対照的に取り乱すのは、“六神将”の名を聞いたカマラだ。
「六神将ってアリエッタの!? どうして!?」
(さあな。盗られてはまずいものでもあったんだな。大方、あの無様な仮面のガキが応援をよこしたんだろう)
「盗られたって……あ」
ことさらそっけない兄の言葉はカマラの頭に音譜盤の存在を蘇らせた。
完全無欠のベクターを避けたシンクもあれを取り戻すべく、街中で奇襲をかけてきたのだ。
今回の襲撃の理由も、シンクと同じところにあるに違いない!
だが、カマラの関心はそこにはなかった。
(どうする? 俺は海なんて泳げないぜ)
「私だって泳げないよ! どうしよう、船を沈められたら死んじゃうッ! 止めなきゃ!」
(バカ! 部屋を出るな! 外にはオラクルの人間どもがいんだぞ!!)
耐え難い揺れに必死で扉に向かうカマラは偉大なる海の恐怖しか
頭にない。
三半規管が弱いものならとっくの昔に嘔吐しているところを、
カマラは野生児にたくましい精神で突き進んでゆく――
――一際大きな揺れが足下を揺さぶると、カマラの身体は扉を吹き飛ばし、部屋の外に投げ飛ばされた。
船内を徘徊していた五人のオラクル兵士とぱったり視線が合ってしまった。
「あ……!」
腕の中で煌く刃に気付いたカマラが息を飲み込む。
続けてむせ返るこのどうしようもない少女を、兵士たちはどうしようもないほどサディスティックな笑みを兜の奥で浮かべていた。
「お譲ちゃん、恨まないでくれよ。おじさんたちも、これが仕事なんでね」
「ひっ……いやあぁっ!!」
振り下ろされる刃を前にして、カマラの生存本能が急激に活性化し、とっさに腕で顔を覆う無意味な行動をとった。
――同時に、
四本の腕は意味のある刃となって
5人の兵士を切り込んだ。
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