妖精の譜歌〜The ABYSS×elfen lied〜

□Episode,5【ジェイドと約束】
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爪を向けて下降する魔物を切り捨て、ルークたちは船尾へと急いだ。

上空を見よ。
無数の黒い塊は災厄たる魔物の群れだ。
魔物どもに混じって降りゆく兵士の鎧は見慣れた神託の盾(オラクル)騎士団のそれ――

“烈風のシンク”を撒けたはいいが、オラクルそのものからは逃れられない運命にあるのかも知れない。

生きてバチカルに行くには、結局敵の総大将を討ち取るしか手はないのだ。


「敵のボスはどこにいるんだよ! とっとと終わらせようぜ」


奥まで進むと、いっそすがすがしいと思える世にも奇妙で高らかな笑いが、豪華だが今ここに在るのは明らかに自然ではない空飛ぶ椅子と共に舞い降りてきた。


「ハーッハッハッハッ! 野蛮な猿どもよ! とくと聞くがいい! 我が美しき名を!!」


ショートに切りそろえられた銀髪の下、丸眼鏡の奥で輝く瞳は自己愛に酔いしれていた。
そいつの名は――


「我こそは神託の盾六神将、薔薇の――」

「――おや、鼻垂れディストじゃないですか」

「薔薇! バ・ラ! 薔薇のディスト様だ!!」

「死神ディストでしょ」

「黙らっしゃい!! そんな二つ名、認めるかぁっ!!」


ジェイドとアニスの“いびり”に“死神ディスト”は甲高く喚いた。


「なんだよ。知り合いなのか?」

「私は同じオラクル騎士団だから……でも大佐は?」


心底つまらそうなルークに口添えを施すアニスがジェイドを見上げた。
だが、返ってきたのはジェイドの声ではなく、ディストの高い声だ。


「そこの陰険ジェイドは、この天才ディストのかつての友!」

「どこのジェイドですか? そんな物好きは」

「何ですって!?」


それをせせら笑うはかつての友(?)――ジェイド。
湧いて出てから面白いほどに取り乱しっぱなしの哀れなディストを、ネズミをなぶり殺す猫よろしく笑みを湛えて、意地悪く言うのだ。


「ほらほら、怒るとまた鼻水が出ますよ」

「キィーーーー!! 出ませんよ!」


低年齢な争いを前にしてしまったルークとガイは、敵を眼前にしながらも無防備に背を向け、お喋り――
話題はそう、大人らしからぬ大人たちについてだ。


「あ、あほらし……」

「こういうのを、おいてけぼりって言うんだな……」


キィーキィー泣き喚くディストとそれを無情にあしらうジェイド。
ふたりの冷静さは、今だけ立派な大人のそれだ。

ふたりの囁きが耳に入ったのか。
ひとつ咳払いをすると、ディストは改めてジェイドに用件を投じた。


「……まあいいでしょう。さあ、音譜盤のデータを出しなさい!」

「これですか?」


無防備に音譜盤の資料を軍服の懐から取り出されると、ディストは意外にも俊敏な動きでそれを奪い去ってしまった……!

ジェイド、鼻垂れに一本取られたか?

「ハハハッ! 油断しましたねえ、ジェイド!」


勝利に酔いしれ、甲板中に高笑い笑い声を響かせるディストを、ジェイドはすました顔でこう言ってのけたのだ。


「差し上げますよ。その書類の内容は全て覚えましたから」


………………。


「ムキーーー!! 猿が私を小馬鹿にして!! こうなったら力ずくです! この私のスーパーウルトラゴージャスな技を喰らって後悔するがいい!!」


思いもよらないイタズラに引っかかったディストの喉から搾り出したのは屈辱の悲鳴。
彼の受けた辱(はずかし)めの苦痛に共鳴したのは、たむろする魔物を押し退けて振ってきた巨大な譜業だ……。




Episode,5 【ジェイドと約束】
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