妖精の譜歌〜The ABYSS×elfen lied〜

□Episode,4【仮面の襲撃者と敗れた腕】
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「あーあー、ムカつく。だいたい、なんだよお前。俺たちもこと恨んでるんじゃなかったのかよ」

「もちろん恨んでいるよ。だから私はあなたたちと一緒にいるんだ」

「あなた……まさか私たちを寝込みに討つ気?」

「今でもいいんだよ」

ティアは杖を構えた。
淡い朱に染めた頬は引き締まり、サファイアブルーの瞳に殺気が宿る。
それを見て取ったカマラも立ち上がった。


「お、おい……」

「ルークは下がってなさい!」


ティアは用心深く、油断せずにカマラにじりじり近づいた。


「確かに、私たちはチーグルの森でライガクイーンを倒したわ」

「……自分の命を護るために?」

「……ええ、それも。そしてエンゲーブを護るためのも。
 卵から孵ったライガの仔は人肉を好むのは、ライガと共に過ごしていた貴女なら、よく知っているわね」


カマラはうなずいた。
人間に肉をつまんだことはあるが、あれは食べられたものではなかったと言うことを思い出しながら。


「弱肉強食ってどこの世界もおんなじなんだって言うことも知っている。
 ママが君たちに殺されちゃったのだって、ママが弱かったからだしティアたちの方が強かった……それは仕方のないことだもん」

「お前……」

「でも、なんて言うか解らないけど、私はそんな理由で片づけられないの。そういう世界だから仕方のないことだけど、君たちのことはどうしても許せない」


弱いものはいつだって強いものに敗れる。
その理屈は分かる。
自分はそういう世界で今も昔も生きていたんだ。

しかし、頭では解っていても、心の方はそうでもないらしい。
弱かった母を亡き者にした強者を許せないと思ってしまった。
やはり、どんなにライガたちに愛されても所詮は人間の形をした生き物だ。
余計な感情に纏われ惑わされて生きてゆくしかないんだ。


「やはり……貴女は私たちに脅威を与えるのね!」


カマラの心情は十分脅威に通じる。

そう判断したティアは、太ももに隠し持ったナイフを投じる!
切っ先をまっすぐにカマラに向かっていたナイフは、見えない壁が存在しているように弾かれると、今まで事の成り行きを見守っていたライガがティアに踊りかかった。

引き裂かれる間際、せめて相打ちにと一本のナイフをライガの心臓目掛けて放たれるその時だ。


「やあやあ、皆さん。穏やかではありませんね〜」


やたら明るい声と共に発動した雷系の譜術――ライトニングがライガとティア、そしてカマラを横切った。

ナイフが音を立てて床に落ちたのは電撃が直撃したからか、
ティアの腕はびりびりと痺れている。
直撃の寸前で後退したライガは術者であるジェイドを見上げた。
彼の背後にはガイ、アニス、イオンが並んでいた。


「誰です? 手の早い悪い子は?」

「お、俺じゃねえぞ!! こいつらが勝手にやりやがったんだ!!」

「ほう」


頷いたジェイドは、しばし無言でティアとカマラを見比べていた。
恐いぐらいに楽しげな笑みを顔にぶら下げて……

「宿の中での諍いは関心しませんね。貴女もオラクルの軍人なら、

「すみません、大佐……」

「………………」

「カマラ」


軍人とは言え、シュンと項垂れる様は16歳の少女のそれだ。
そんなティアを一瞥してから、ジェイドはカマラに囁いた。


「自分のやったことを忘れないで下さいね。やりすぎとはいえ、ティアの行動は当然と判断ですから」

「………………」


何か言いたそうに口をもごもごさせているカマラにそれだけを言いつけておくと、ジェイドは一同に向き直った。


「さて、こちらが音譜盤の内容を記した書類です。膨大な枚数でしょう? ご覧のとおり、用は済ましてきました」

件の書類を脇に抱えたガイを指差すジェイド。


「さあ、行きましょう」と言うジェイドは薄気味悪いほど明るい。
この暑い中、汗の一滴も掻かないなんてきっと人間じゃない。
ルークはそう思ったのは永遠の秘め事だ。




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