妖精の譜歌〜The ABYSS×elfen lied〜

□Episode,4【仮面の襲撃者と敗れた腕】
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「わあーーー!! これすっごい! てか何これー! 変なのー!」


賑わう露天で行きかう人々は、わざわざ振り返ってはぎょっと目玉と飛び出して少女を見た。
田舎の山出し娘――それにしては身なりは立派なものだ。
きっと田舎貴族の令嬢あたり……時代錯誤な礼服を、流行に敏感な上流階級の人間はもはや着用するはずがない。

目立つ元気っぷりに加え、傍らのライガも目立ってしまうその理由のひとつだろう。
ただでさえ道は人でいっぱいなのに、件の少女のためにわざわざ避けて通る。

自分を中心に二m以内に人がいないことに、さして気にも留めないカマラは一軒の屋台の親父に話しかけた。
そんなカマラの後姿を睨みつけ、アニスは内秘めた不満をジェイドに明けた。


「大佐ぁ。あの子、どうしても連れて行く気なんですかぁ?」

「そうだぜ! あんなガキ、どっかに棄てちまえばいいんだよ!」


ヴァンと別れて、ルークの表情は急激な温度を持って変化するのであった。
歓喜と敬愛に溢れた顔は今、彼特有の傲慢な顔つきに戻るでもなく、恐怖の根を骨の髄まで植えつけられたような顔でジェイドに訴えかけた。


「それは出来ませんよ、ルーク。あなたもカマラの力を見たでしょう。
……あんなものを野放しにするのはあまりにも危険です。恥ずかしながら、私もちょ〜っぴりヒヤリとしてしまいました♪」

「でもね、大佐。それなら殺しちゃえば済む話しでしょう?わざわざ連れて行くことないって。
あいつ、アリエッタの知り合いらしいし、六神将のスパイかも知れないんですよぉ……イオン様の御身にもしものことがあったらどうするんですか?」

「まあ、それはそうなんですけどね」


濁すようにアニスの返された言葉は、アニスが求めていた答えではなかった。
話しを逸らすように、屋台できゃあきゃあ喚くカマラの許に歩み寄るジェイド。



「何か珍しいものでも見つけたのですか?」

「これ、貰ったんだ」


カマラの両手で添えているのは、試食用の紅茶が注がれたカップだ。


「これはチャイですね。お気に召したんですか?」

「なんだか身体がぽかぽかしてきた……」

「でしょうね。しょうがをたっぷり摩り下ろされたチャイは寒さを凌ぐ、効果を持っていますから」


そんな効果、このクソ熱い町にいらねえだろう。
誰かがそう思ったはず。

襲撃者の少女と仇である軍人のたわむれを、ルークたちは黙って眺めているだけだった。

ジェイドが何を思ってカマラを連れて行くのかは、理解できないが、あの何を考えているのか解らない笑顔を観察していたところで答えは見つからない。

きっと、ジェイドにはジェイドなりの策がある。
多少腑に落ちないが、そう片づけるしかなかった。

程なくしてジェイドとカマラが一同と合流すると、
船を手配するべく、キムラスカ側の領事館に向かう。
バチカル行きの船は準備中の最中で、出港までの時間を潰すことになった。

コーラル城でガイが六神将“烈風のシンク”から奪い取った音譜盤(フォンディスク)をケセドニア代表アスターの豪邸で解析することにした。

生憎、機嫌の優れないルーク、付き添いのティアと、――疲労を訴えたカマラは宿で過ごすこととなった。




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