チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】
□act18 【ペーターのズッ友】
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睡眠状態の脳に意識が宿り、つられるままにまぶたを開く。
霞んでいた意識が徐々にはっきりしたものになると、レンズ越しの知的な赤い眼が覗き込んでいるとだけ理解する。
「マシロッ……ああっ、マシロ! 目が覚めたんですね!」
端正な顔を今にも泣きだしそうに歪めているのに、震える声は安堵で溢れ返っている。
会合の場で一度見たきりのその顔の人物のことを、忘れてはいないもののこちらに来てからもその声を耳にする機会がなかった。
そんな彼の名前は……
「ペーター……さん?」
名前を呼べばペーター=ホワイトは泣き笑いの表情になって今にも抱きしめんばかりの所作で身を乗り出すのだった。
マシロも腕を軸にして上体を起こそうとする。その反動で頭がずきりと痛んだ。
「大丈夫ですか? 無茶しちゃいけないですよ」
痛みに表情を歪めるマシロを見て、ペーターは心配そうにたしなめる。
マシロは額を抑えながら、痛む頭で過去を振り返った。
(私……今まで何をしてたんだっけ)
思い返すまでもない。
夢の中でアリス=リデルと邂逅を果たしたではないか。夢にしては鮮明に覚えている。
本当に直ぐ傍で対面して、言葉を交わしたようなリアルさがあった。
おそらく、この現象こそボリスが言っていた夢魔の「夢を繋げる」と言うやつなのだろう。
アリスと逢った。
そこまでははっきりと覚えている。
しかし、自分はいつの間に眠ってしまったのだろうかと言う疑問が生じた。
そもそも何故ペーターがここに居るのか。そして自分は今どこに居るのかと視線を巡らせる。
内装の特徴からしてハートの城にある部屋のひとつなのだろうが、見たことがない場所だった。
「ここは僕の部屋です」
……それならば見覚えがないのも頷ける。
マシロの疑惑を察したのかペーターはマシロの望む答えを口にするのだった。……にこにこしながら。
「ペーターさんの?」
「はい。僕のです」
「なんで私、ここに……」
「メイドに任せておけないからですよ」
「任せる? ……私……どうしたんだっけ……」
「マシロは倒れていたんですよ。僕が掛けつけた時にはもう気を失っていて……」
「倒れた? ……あっ……」
核心に迫る言葉を汲み取ると、マシロは自身の身体を強張らせてしまう。
脳裏に先刻の惨劇が駆け巡ったのだ。
「エースさんが……エースさんが」
そうだ、エースが兵士に馬乗りになるとナイフを振りかざして、そして―――
「や、やめて!」
痛みが激しくなる頭を抱えると、立てた両膝の上に顔を埋めて拒絶の悲鳴をあげた。