チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】

□act6 忘れた夢のつづき
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act6 忘れた夢のつづき


「は、離してってばっ!」

「そんなに怖がることはないでしょー?」

「僕ら別にお姉さんをとって喰おうなんて……」

「さっき切り刻まれろって言ったじゃない! いやっ、いやぁぁ!!」


幻聴騎士エースと別れたあの後、結局のところ逃げおおせることは叶わなかった。
現在、マシロは悪名高き"ブラッディ・ツインズ"に引きずられるように連行されていた。針金のように細いマシロの両手をそれぞれが握っている。
先刻より引き寄せられる力に抗っているものの、大人の男二人の力に敵うはずもなかった。
斧は至近距離にはなかったがマシロの顔は空のように青い。顔面蒼白であった。
そんな顔ごと不自由な身体を捻って抵抗を試みているマシロの鼓膜を打ったのは来国後初めて耳にする音声。
連続する乾いた音は忘れていたこの世界の日常そのもの――銃弾飛び交うワンダーワールドのお約束であった。


「おまえら! いい加減にしろよ!」


ボリス=エレイが彼こだわりの得物を連射しながら駆け寄る。


「わっ……!? な、なにすんだよ、ボリス!」

「お姉さんに当たりでもしたらどうすんのさ!」


驚いて、その実楽しげに顔を綻ばせたトゥイードル=ディーとトゥイードル=ダムは自慢の斧で応戦する。
鋭利な輝きで降り注ぐ弾丸を弾き飛ばしながら親友の懐に潜ろうとする様子は嬉々としていた。
「お姉さんは危ないから隠れて」と悪魔の双子の言葉を最後まで聞かずとも、その魔手から放たれたマシロは悲鳴をあげて大木の影に駆け寄る。


「た、助けて……!」


よろめいた足下を木の根っこが捕らえた。
逃げる力と合わさってマシロは派手に転倒してしまう。


「ボ、ボリスってば……! 相変わらずあんなことして……!」


頭を抱え、地にふせっていたマシロがふと視線を森に滑らせた。若葉色の輝きと重なる。
マシロと同じ姿勢で木陰に隠れていたピアス=ヴィリエがひどく怯えた視線でマシロを射抜いているではないか。


「ピ、ピアス君……?」

「あわ、あわわわ……ねこ、ねこだ……」


猫?
自分を見てそう言ったピアスの言葉を反復する。そこでピアスは声を張り上げた。


「双子にボリス……にゃんこ、にゃんこが二匹……っ! こわい、こわいよ!」


ピアスは上体を起こした勢いのまま尻を地につけて後ずさる。
そんなピアスを唖然と凝視していたマシロの背後を――遊びは沈静化したのか、双子が立って事の成り行きを胡乱げに見守っていた。
彼らに気付いたマシロも引き攣った悲鳴をあげてしまうが、ディーとダムは特に気にしていない様子で言った。
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