チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】
□act5 ■■は迷わない
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「君はイノシシだよなぁ」
「……なんですか」
「一直線なところがだよ」
「はぁ……」
「望んで帰って……それで望んで戻ってきた。ルールに縛られない君の在り方は惹かれるけれど、振り回される猫君には同情するぜ」
「……選べる自由が余所者にはあるって言ったのはエースさん、あなたじゃないですか」
「あれ? 覚えていたのか?」
「……それはもう」
「てっきり忘れたのかと思ったんだけど意外だなぁ」
「あんな強烈な体験はそう忘れられないと思いますけどね……」
時計塔から強制的に身を投げ出されたのだ。命綱はエプロンの結び目ひとつ。
思い出すだけであの浮遊感に身が震えてしまう。
チェシャ猫を気遣う言葉をちらつかせながらも笑みを絶やさないその顔がわずかに呆れの色を滲ませる。
「でもマシロなら忘れられる」
「……何を言って」
「俺に酷いことされたら嫌でも忘れるだろ? だから忘れられるんだ」
「…………」
なんて不穏なことを言ってのけてくれるのだ。
何を企んでいるのか計りしれない恐怖に打ち震え、焦燥に駆られる。
この騎士まがいの男は自分を時計塔の最上階から放り投げようとした前科があるのだから……。
腹の奥底で何を考えているのか解ったものではない。解りたくもない。
「例えば……こういうこととか!」
「!」
意味深な発言からの実行宣言にマシロに緊張が走った。
エースは立ち上がると口の両端に手を添えて……
「おーい! マシロはここにいるよー!」
大声で叫ぶのだった。
突拍子もないその行動に固まるマシロに笑顔を向けると、なんてことないように助言するのだ。
「早く逃げないと捕まるぜ?」
「なっ……なんてことを……」
「ほらほら、早くしないと!」
エースがマシロを立ち上がらせてその背を押すとすでに遠方より双子の声が近づいてくる。
マシロが顔面蒼白になった頃にはもうなりふり構っていられず、茂みから飛び出す。
足下を縺れさせながら逃げ去る頼りない背中を、赤い眼が追いかけながら、あの速度じゃあ俺が早歩きしても追いつくなぁ、なんて思いながらふいに視線を移す。
小うるさいドア達をしばらく見つめてどれくらい経っただろうか。踵を返して歩き出す。
旅がしたいなぁ。
会合に拘束されて、俺って本当に運がないよ。
Next Story/タイトル未定
(2016/01/30)(あの双子が身長190pあるとか超怖い)(我が家の双子がマイキー!感ある)(顔が認識できない夢主…もしかして:相貌失認)
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