チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】
□act4 甘い砂糖菓子のような悪夢
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act4 甘い砂糖菓子のような悪夢
「この世界の引っ越しとは建物が移動することである」
場所はクローバーの塔の一室――応接間だろうか?
結局まともな会合など続行できるはずもなく、後日仕切り直しとなった。
もっとも、まともにやろうものならば今度はまともなことが決まらないのだが、それはマシロが知る由もないことである。
黒革のソファに身を沈めるマシロの反対側――四足のテーブルを挟んだ向こう側でナイトメアがミステリアスな雰囲気キャラを作っていた。
似合わないなぁ、なんて思いながらナイトメアの斜め後ろで控える男性を盗み見る。
――爬虫類を連想する金色の双眸と視線が重なった気がしたので即効で逸らしてしまうが。
「こいつが気になるか?」
何が可笑しいのか、ナイトメアは薄紫色の唇にニヤニヤ笑みを浮かべている。
ナイトメアの部下だろうか?
引っ越しとは、簡単に言えば大規模な地殻変動による建物そのものの移動を表しているそうだ。
そう教えを説いてくれたナイトメアが、このクローバーの国は自身が治める国であるとも説明してくれたのだ。
マシロもナイトメアとは気心が知れた仲であったし、彼が器にそぐわぬ地位の持ち主であることを知っている。
首に蜥蜴のタトゥーをいれたこの男も、おそらくは部下の一人なのだろう。
彼もまたナイトメアに困らせられている者のひとりなのだろうな、なんてぼんやりとしていたのが運の尽き。
夢魔の能力を侮ることなかれの精神を忘れていた。
「私は誰も困らせてなどいない」
(……黙っていてください)
「君が黙っているじゃあないか!」
(いいから黙って!)
「……まるで借りてきた猫だな」
何やら直接的な心理戦を繰り広げているが、傍から見ればナイトメアが一人で喚いているようにしか見えない現状である。
ああ恥ずかしいな、とまるで自分のようにいたたまれない気持ちになるマシロだった。
心から、二重の意味で病院行こうねと念じる。
「兄さんを恥ずかしがるな! 病院にも行かないからな!」
本当はこんな子じゃあないんだぞーと部下に愚痴をこぼす一方で、細長い人差し指がマシロに向けられている。
本当にこの人偉いのか?
「私は偉いのだ!」
「ナイトメア様……心の声と会話されても俺には解りませんよ」
男性が上司を窘めると、マシロに向き直って言葉を紡ぐ。