チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】

□act3 再開
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「マシロ……おお、マシロ! おまえ本当に帰ってしまうとは情けない! わらわに何も言わずにとは冷酷な女じゃ!」

「また望んで迷い込んできたのかい? はははっ、君らしいね! 俺も迷って別の場所に行きてー」

「君はいつも迷っているじゃあないか……ああ、お嬢さん、君たちがいなくなって退屈していたんだ。またうちに来てくれ。我々はいつでも君を歓迎し――」

「ちょちょちょ……みんな寄ってたかってマシロに近づくなって!」


てんやわんやで騒々しい。
ビバルディがその美しい手でマシロの小さな手をとり、エースが何食わぬ笑顔をこしらえながら上半身を机上に乗せて肘をついている。
ブラッド=デュプレは相も変わらず気だるげだが有無を言わせない視線もこれまた相変わらずだった。
そんな彼らが気に食わないのか、ボリスは身振り手振りで野次馬共を引き剥がそうと試みている。



蚊帳の外と言うべきか。
マシロ達から離れた一角で複雑な表情をしているエリオット=マーチ、なぜゆえか怯えた表情のピアス=ヴィリエと見知らぬ双子の青年達が、
そこからも遠い位置で棒立ちしているペーター=ホワイトが、それからそれから主催者席の横で起立している金色の瞳を宿した黒髪の男性が、それぞれ異なる気持ちで喧騒を見守っていた。
皆、一様にスーツを纏っている。


そしてもうひとり……。


「マシロ! こんなにやつれてしまって……! 私が帰らなくていいと暗に示したのに本当に帰るからだ!」

「えっと……あの……?」


切り揃えた銀髪の下、薄紫色の唇に一筋の血を滴らせたアイパッチの男性が、誰よりもマシロに取りすがって泣き声のような声を張り上げていた。
誰であったか?


「私だ! ナイトメアだ! 恩人の尊顔を忘れたのか、マシロ!?」


今度はマシロの顔に驚愕の色が差す番であった。


「えっ!? ナイトメア……? しっ、知らない知らない! だって顔なんて一度も……ほんとにほんとにナイトメアさん!?」

「本当に私だとも!」


マシロの空いている白い手を、これまた白い手が握ってぶんぶんと上下に振られる。
感涙せんとばかりのその様子に、隣で片膝をついていたビバルディの冷ややかな視線を受けても"恩人"は気にするそぶりを見せない。


「……わはっ! わわ、私、初めて……! 逢えて嬉しい! 初めまして! ナイトメアさん!」

「いつでも傍に居たじゃあないか! ひどいことを言う!」


思わず立ち上がったマシロと、それまで中腰だったナイトメアが互いに手をとり合ってはしゃいでる。
初対面とも、再開とも邂逅とも言える感激から今にも二人でジャンプしそうな勢いである。
取り巻き連中も蚊帳の外に追いやられて行く……否、その中に在ってひとりだけ現状を見送ることに是としない者が居た。



トパーズの瞳をすぅっと開いたボリスが次に出た行動は、ナイトメアの青白い顔を押しのけることだった。



「ちょっと夢魔さん……いくら旧知の仲だからって我が物顔はやめなよ!」

「なっ……いいではないか! 私だってマシロに会いたかったのだから!」

「でもマシロは俺のだし……遠慮しなよ?」

「おまえが我が物ではないか!」

「事実じゃん」


言い争いをしている二名に馬鹿馬鹿しくなったのか、はいはい解散解散と誰かが言ったのを合図に皆が起立し、退室しようとする始末。
去り際に女王とマフィアの若きトップがマシロにそれぞれの茶会に招待したり、騎士が旅をしようと誘ったりと、各々が気ままに声をかけて部屋を後にするのだった。


会合は破綻していた。



この現状に黒髪の男性が金色の瞳に瞼を落としてため息をついた。










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(2016/01/24)(場面ごとにページを分けていたら1ページの文字数がヤバい)(台詞いっぱいで書いてて楽しかった)
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