チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】

□act3 再開
1ページ/4ページ


嫌な夢を見た。

醒めれば幻だと解って落ち込むけど、逢えるなら夢の中だって良かったし、これまではそれほどブルーになることもなかったのに……。

夢の中のマシロの俺なんか知らないってあの態度。

途端にやりきれない気持ちになる、そんな夢。

むしゃくしゃしていつものようにピアスを追い回して森に追い込んだら見失うし、騎士さんじゃないけど、俺ってとことんツイてないよな。

腹は減るし、煮え返るし、とにかく虫の居所が悪い。なにしたって落ち着かない。

それからドアの森から聞こえてくるあの泣き声。汚い声じゃん?

もうなんでもいいから、ネズミでも食っておとなしくなればそれでいいよ。

自棄食いでもなんでもいい。それくらいムカついていた。

だから、地べたに座り込んでるその子を見たとき、まさかって思ったよ。

まさか戻ってきてくれたの?

駆け寄って確認するように顔を持ち上げたら、正直絶句モノ。

最後に見た濃い髪は短く切り揃えているし、涙や泥で汚れた白い顔には深い隈が残っていたけど、確かにマシロだったんだ。


「ボリスさん……」


しゃくりあげる低めの声もやはりマシロのもので息が詰まる。


「ッ……! なに今更いけしゃあしゃあと戻ってきてんだよ……俺のこと捨てたくせに!」


堪らなくなってその身体を引き寄せる。
俺、どんな顔してる?


「ごめ、なさ……ごめんなさい、ごめ……っ、うぅ、うわあああぁぁぁッ、ボリスさぁぁぁん!」


夢じゃない、よね?
本物であれと細い身体を強く胸の中で抱き締めると、遠慮がちに抱きしめ返されるもんだからマジでもう死んじゃってもいいくらい。

僅かに伝わるぬくもりも道連れにしてさ。










act3 再開
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ