チェシャ猫と歌う恋のトロイメライ【1】
□act1 とある世界線
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俺はいつものように駅にいた。
いつものようにって?
たぶん別次元の俺とかじゃない? いや、詳しくないんだけどね。
めずらしく汽車の改造もせず、ぼうっと汽車の入り口に寄りかかっていると汽笛が鳴るんだ。
汽車の中には帽子屋さんや女王様……とにかく役持ち皆いて、皆顔がない。
ああ、これは夢なんだって思いながらうわの空で汽笛を聞いてるんだ。
――誰かが叫びながら走ってくる足音が聞こえる。ふとそちらに目線がいく。
「――って!……待って……待ってください!」
長い黒髪をたなびかせながら、その子が汽車に駆け込む。
その横顔を目で追ってしまう。動作のひとつひとつの時間が、やけに遅く感じた。
扉が閉まる。
前も後ろもボリュームのある髪。その下のパーツのある顔は、とても見覚えがあった。
お世辞にも美形とは言えない赤面症の気がある青白い肌は、走ってきたせいもあっていつもより赤い。
眉から鼻先にかけて綺麗に描くY型のラインの堀の深い顔が、ふと俺に気づいてはにかんだ。
「こんにちは。あなたも惑わされた人ですか?」
まるで、俺のことなんて知らないって風だった。
窓の向こうの景色が流れてゆく。無機質な心臓が痛んだ気がした。
彼女は、俺と『逢わなかったマシロ』なのか、俺のことを『忘れてしまったマシロ』なのか……。
気まぐれな夢も見たもんだね。
🍀