チェシャ猫と愛に生きるトロイメライ【2】
□act12 ムツゴト
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微睡みの中を泳ぐ私は夢の魚―――
無意識の海を心地良く浮遊していると髪を梳かれる感触にまぶたを開けた。
「起きた?」
小さく微笑むボリスと目が合う。
(どうしてボリスが下にいるんだろう)
見上げてくる視線を不思議に思いながらも既視感を覚えていた。
ぼんやりする意識で思考を巡らすと段々に状況を把握する。
そこで私は、ああしまった、と項垂れてしまった。
程よく逞しい胸板に額を載せる。
どうやらまたボリスの上で果ててしまったらしい。
「最悪だ……」
そう、またなのだ。またやらかした。
ボリスを快楽の淵に誘うより先に自分が力尽きてしまったのだ。
いいえ、力尽きたというか、不可抗力というか、押し寄せてくる波に腰が引けたと言うのか……。
いつもそうで、最終的にボリスに腰を掴まれて逆に私が……という展開がお約束になってしまったようである。合掌。
私は失意のうちに呻いた。
「もー……なんでいつもうまくいかないんだろう」
最悪、最悪と呪詛を紡ぐかのように繰り返される言葉は自己嫌悪。
自虐と、それから自分を責める言葉をひたすら口にし続ければ、すぐ下からくすくす笑われてしまう。
「またあんたが先だったね?」
「ボリス……ごめん……いつも中途半端で」
言っていることとやっていることが噛み合わないとは、不甲斐ないことこの上ない。
やりきれなくて頭をぐりぐり振った。
「そんなことないって」
自棄っぱちになっていると背中に腕を回されて撫でられる。
すりすりした感覚を素肌に感じ、そうされることで私の気性は凪いでゆく。
「顔上げて」
優しい声に導かれて言うとうりにする。
ボリスは少し疲れた顔をして、けれど、甘く笑んでいた。
たじたじになる私を射止める金色の瞳がふわりと細まる。
「すごく気持ち良かったよ。マシロの頑張る姿にずっとキュンキュンしっぱなしだった」
「本当?」
「うん、本当。腰引けてるくせにすりすり動いてさ……そんなもどかしそうにされたら俺もどうかしちゃうって」
全く罪作りだよね。
そう笑われて、引きかけていた熱が急速に集まってきた。
「なんでそんなことわざわざ口にして言うの!」
恥ずかしくなってしまい、慌ててボリスから退こうとした。
きょとんと瞬きする金色の瞳からも距離を取りたいがために顎を引く。
「なになに? なんで退いちゃうの!? どうかした?」
「ど、どうかしたのはボリスじゃない」
脇に押し退けられたおふとんを掻きよせて胸に抱く。