チェシャ猫と愛に生きるトロイメライ【2】

□act9 ヤキモチ
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お腹もいっぱいになったところで最初の目的だった買い出しにさぁ行くぞ!と思いきや、
そんなことは二の次になってしまったのかマシロはあちこち行こうよと頬を緩ませて言った。
雑い強面にほくほくした笑顔のギャップに萌えを感じつつ、映画を見に行くかとか、カラオケもあるんだよとそこはかとなくそわそわするマシロに心洗われる気持ちになる。
マシロもデート気分でいてくれるのが嬉しかった。


バス停までの道中で聞いたマシロのささやかな不安が解消できたのとは別に俺もデートらしいデートを満喫している。
朝、外に繋がるドアの前にいたマシロはなんだかちょっと変だったけど、今はその陰りもない。
不安も不満も口にしないで溜め込む子だからたまに危ういなって思うよ。


「このデパートはなんでも揃ってるんだよ! カラオケのお隣にはインターネットカフェもあるし、映画を見るなら時期的にホラーをオススメするよ!」


普段の根暗も払拭されて明るい感じの女の子になっちゃってるし。
根暗でも別にいいんだけど、うじうじさせておくと勝手にドツボに嵌っちゃうからこれはこれでいいんだけどね。


「ボリスはどうしたい?」

「俺? じゃああんたが大好きなホラーがいいなぁ。どれ程のものかお手並み拝見といこうぜ」


正直おっさんとこのスリルと爽快感が味わえるホラーハウスの比ではないと思うけどさ。


「マシロも怖くなったら俺に抱きついていいからね」

「暗がりに乗じて変なことしないでよ」


楽しそうににこにこしているマシロは本当に楽しそうで。
ねぇ。その顔は俺といっしょにいるからそうなんだよね。
ホラー映画見たさでそんなほくほくした笑顔見せつけられちゃ嫌だぜ?


俺の見境ないジェラシーに気付いてないで話題の映画を饒舌に語るマシロの笑顔にムッとする。
ムム……この子……銃を語る時の俺じゃね?
ああ俺こんなんなんだー。
何かひとつにこだわりを持っている奴ってこんなに自分の知識をひけらかしているのか。
オタクってこんなんなんだ。


嫉妬がよく解からない方向に脱線したところでマシロとばったり目が合う。じっと見られていることに今気づいたらしい。
俺はそのまま無言で見つめていると、マシロは頭の上に浮かべたクエスチョンマークの数を2つ、3つと増やしてゆく。
それでもじっと見つめていると、だんだん目も合わせることもできなくなっちゃったみたいで、視線が落ち着きなく彷徨いだす。
唇を間一文字にきゅっと結んで慌てている様子は、頬が赤いこともあって可愛らしい。


各々のパーツは決して悪くないのに組み合わせが雑と言う、他者に口頭で伝えたらどんな顔だと言われそうな作り。
加えて鋭利な切れ長の三白眼は強面ですらあるのに、反応は小動物みたいで愛嬌があって良いよね。
トラウマはさておき、普段からぶっすらしてないでそうやって振る舞っていたらいいのに。
それも俺の前だけだからこそ独占欲が満たされるんだけど。
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