チェシャ猫と愛に生きるトロイメライ【2】
□act8 ネギトロ
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「美味い! 俺のオススメの店より美味しいかも!」
「ふふ、それは良かった」
ぱくぱく食べてる様子に私の少ない食欲が刺激される。
幸せな気分になって自然に笑みがこぼれた。頬が緩む。
「うん、美味しい」
ふふ、と小さい吐息すらも抑えられない。
ボリスは箸を休めて「本当?」と真剣な顔で言ったのでうんと頷く。
「うん、美味しいよ。ボリスが美味しそうに食べてるから私も美味しい」
きょとんとするボリスが可笑しくて可笑しくてぷっと噴き出す。
ボリスは嫌な顔をしなかった。
「あんたがこれから毎日いっぱい食べてくれるなら俺はなんでも食べるよ」
「そうなったらどっちも太っちゃうね。ボリスはスタイルが良いのに勿体ないよ」
「あんたがちょっと痩せすぎなんだよ。胸だって前に触った時よりも小さくなってるし……」
「そ、そうかな?」
「うん、減ってる。こう言っちゃなんだけど、あんたって拒食症の気があるよな。拒食症はチェシャ猫の俺で充分なのに」
「衰弱死させるくらいなら殺すわ。何食べても味がしないから食べたくないだけ」
「何食べてもいっしょ、ね……ピアスと訳が違うからなぁ。逆にチーズたらふく食べさせて増量させた方が手っ取り早いような……」
「食べやすいって意味でならつるって入る麺類や冷たいものが好きだなぁ」
主食を食べきって食後のアイスをスプーンで掬う。
口の中に入れると舌の上でじんわり冷たい感覚が広がってゆく。
甘さはこれといってしないけど、この冷たさは好きだ。
味がしない食事を採るのは億劫な行為だった。
固体となれば租借すら拷問で吐き気が込み上げてくる。
食べることは生きること。美味しいものを食べる喜びはまさに至福の時だろう。
それが一切感じることができないのに毎日3食採ることを想像してほしい。
味がするなら私だってちゃんと食べたいよ。
「それにチーズオンリーって健康的な太り方じゃないよ。うどんだって炭水化物だけど栄養価はほとんどないし」
「こんなに甘々いちゃいちゃのラブラブなら幸せ太りするかもよ?」
「ふふ……ボリスと食べるアイスは甘いものね」
「俺にもちょーだい」
「いいよー」
「あーんして」
「しないよー」
「なんだよー」
「帰ったらしようね」
拗ねた視線を受けながらやんわり断りを入れる。
ここでボリスの命令権限である令呪を発動したら話は別だけど、ボリスは従えとは言わなかった。
ただ嬉しそうに笑って、じゃあいっぱい食べてもらえるのを作るよと言って私のスプーンの持ち手をとり、ぱくんと自分の口に含んだ。
吃驚してスプーンを引っ込めようにも手を掴まれてるからそれは叶わない。
ぼんっと顔が熱くなるのを感じながらおとなしく言われたままにしておけば良かったと思う私でした。
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(2016/09/29)
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