チェシャ猫と愛に生きるトロイメライ【2】

□act8 ネギトロ
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「お腹空いた〜」


力ない声で告げられたのはデパート開店から40分を過ぎた頃だった。
つまり10:40くらいになるとボリスが空腹を訴え始めたのです。


「朝ごはん食べないで出てきちゃったもんね」


そもそも朝食を作る食料がないからこうして買い出しにきてるわけで。

肩を落としてお腹を摩っている姿が可哀想に見えて、咄嗟に周囲に視線を走らせる。
しかし、辺りには新車を並べているコーナーや着物屋はあれど飲食店は見当たらない。
ケーキ屋やシュークリーム屋はあるんだけど……うーん……。

手元にあったデパートのパンフレットを広げる。
パンフレットにはデパート敷地内で展開されているお店の名前がずらりと記載されてあった。


「ああ、じゃあ一度外にでましょうか。和食屋に行きましょうよ」


外。と言ってもデパートの外ってだけで敷地内を移動することに変わりはない。
他にオープンカフェもあるんだけど、せっかく日本に来てもらったんだし、昨夜に続き日本食をごちになってほしい。
だけど、私の提案にボリスは唇をへの字に曲げて不満げだった。


「ボリス? 食べたくないの? それともお腹痛くなっちゃった?」

「痛くないし食べたい。でも食べるんなら俺はマシロと一緒に食べたい」

「私も食べるよ?」

「本当? コーヒーだけとかナシだよ」

「うん、ちゃんと食べる」

「っ、じゃあ行こう!」


再度食べる意思を示してやっとボリスは本調子を取り戻す。

ボリスが私と食を共用したい気持ちは素直に嬉しかったし、逆に言えば食べ物の味を共用できないのがちょっとだけ寂しいと思った。
私は味を感じることができないし食欲も薄いけど、それでも楽しいデートはできるんだって証明しなくちゃね。
楽しいって気持ちや幸福感は分かち合うことができるんですもの。
私が幸せならボリスもそうでなくちゃ。


声音からして元気になったボリスはその耳と尻尾までぴんとしているに違いない。
あの尻尾を何をどうして隠したかは……お察しです。











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