チェシャ猫と愛に生きるトロイメライ【2】

□act7 ボウケン
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空調が利いたバスを降りると、冷え切った身体に夏の日差しが容赦なく降りかかる。
日除けに手をかざして見る目の前の景色は大型チェーン店のデパートだった。
バスの発進音を背後に聞きながら私はカバンの中身を気にかける。


「ボリス……大丈夫?」


人気がなかったので遠慮なく声を掛けると力ない声が返ってきた。


「あー……割とつらいかも……」

「そっか……」


酸素が薄いのか熱いのか……。
このままの状態で買い物に付き合わせてまたバスに乗って帰るのはつらいだろう。
やっぱり無理があったんだ。


(仕方ない)


私も覚悟を決めよう。
意を決したならばカバンが揺れないように気遣いつつ、足早にデパートの敷地を進んだ。
敷地内は駐車場から歩いてくる人や施設を出入りする人たちで混雑していた。
夏休みのせいか、小さなガキがそこらにいる。
私にとってこの溢れんばかりの人込みは拷問だ。
だけど、ボリスはもっとつらい。
蒸し猫になっちゃう前になんとかしなくちゃ。


そうして辿り着いたのは服の売り場だった。
メンズ・ファッション・コーナーを嗅ぎまわり、手軽そうなインナーとパンツをカゴに放り込んで……
ああ、そうそう。忘れちゃいけないのが帽子でそれも手に取ってから支払いを済ませると、真っ先に試着コーナーに上がり込む。


「さぁ、ボリス、出てきて」


元から大きな声で喋るのが苦手な私だけど、さらに声を潜めてカバンの中の人に呼びかけた。
全開のカバンから本物の猫ちゃんが顔を覗かせる。目に痛いピンク色の猫ちゃんが。


「出ても大丈夫なの?」


これが人間だったらどこかのエスパーさんみたいだとクスッとしつつ、うんと頷く。


「あり合わせで申し訳ないけど、着てくれるかな」


余程カバンの中が地獄だったのか、OKが出た途端ボリスは迷いなく出てくる。
カバンからひょいっと飛び出すとその姿を変えてゆく。

何も出てからじゃなくてもいいのに。
カバンから出てくる時くらい人間の姿を期待してしまった。


「なーにひとりで笑ってんの?」


指先で広げたインナーをしげしげ見ていたボリスに指摘され、なんでもないと笑って返した。











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