チェシャ猫と愛に生きるトロイメライ【2】

□act4 アケガタ
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その日の真夜中―――
草木も眠る時間に、俺は頭を悩ませていた。


伏せ気味の金色の瞳が暗い部屋で輝く。
傍らにいるマシロは深い眠りについていた。薬の効き目は良いみたいだ。
浅い寝息とゆるやかに上下する胸に安堵する。
安らかに眠れてるみたいだね。


くすっと微笑を零す。
しかし、直ぐに顔の筋肉が引き締まるのを感じた。



いつだったか、珍しくマシロの方からなぞなぞを吹っ掛けられたことがあった。


『パックに入ったタマゴの違いってなぁんだ』


タマゴに違いなんてあるのかと悩んだよ。
だけど、いくら思考を捻らせても、つるつるの白い表面に差があるとは思えない。答えをいくつか提示したけど、全部はずれ。
白旗を上げれば、マシロはしてやったりの表情で言った。


『人の顔よ』


彼女の言葉は今でも覚えてる。


『タマゴのハンプティ・ダンプティをご存じ?』

『……? いや?』

『知らないの? イギリスの詩集のひとつだよ』

『イギリス? なんか親近感湧くかも』

『うーん、不思議の国のお話ってイギリス生まれだからそう感じるのかも』


答えを聞かされた俺はと言えば、なぞなぞにするなら、壊れてしまったら治せないものはなーんだ?の方がいいんじゃないかと思っている場面だった。
そんな考えに至ったところで、思いついたのはマシロの【心】だったけど。


『あれもね、諸説はあるだろうけど、私と同じで他人の顔が解からないんですって』

『解からない? まるでタマゴに知能があるみたいな口ぶりだぜ?』

『ハンプティ・ダンプティはタマゴが擬人化したものだと言えば納得する?』


その後に絵に描いてもらったけれど、顔が描いてあるタマゴに手足が生えてるだけの生物を擬人化と言っていいのかと斜に構えた感想をしちゃったり。


『あれもね―――私と同じで他人の顔が解からないんですって』


とにかく、昔に聞かせてくれたマシロの話を、俺は今になって思い出していたんだ。


閑話休題。
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