チェシャ猫と愛に生きるトロイメライ【2】

□act2 ユウウツ
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「こう言っておけばマシロも安心して俺の傍にいてくれるだろ?」


―――やっぱり慰めてるじゃない。とマシロは思った。


「安心して、今まで通り俺に尽くして大丈夫だから」

「は、はい!」


ボリスはニッと笑うと、その笑顔のまま距離感をぐっと寄せるのだ。


「ってなわけでまた俺に跨ってよ」

「ぶっちゃけそれ飽きない?」

「そう? 俺は結構好きだけど。
 そりゃたまには先手打って攻めたい時もあるけど、俺のために気持ち良いの我慢して頑張るあんたにすごくクるものがあるし。嗜虐心とか征服欲とか刺激されまくりで……」


恍惚の表情で舌なめずりするボリスをマシロはぽかんと見つめていた。


「責められてるのに、なんでボリスのサディズムが刺激されてるの?」

「……あんたって妙なとこが鈍いって言うか、変に頭硬いよね」


「ん〜」と難しく悩んでいる様子のマシロにこっちもやれやれとなってしまう。


「まぁでも、利害の一致で利用し合う関係がここまで進むとはねー」

「あなたにとって私は今でも都合の良い女なのかしら?」

「それはマシロだって……俺は最初の頃から好きだって言ってるのに」


唇を尖らせて不満を訴えるボリス少年のなんと可愛らしいことか。
自分のコンプレックスを刺激されたマシロも不服を訴えた。


「それはだって、ボリスが俺を利用して依存しちゃえって言ったから!……でも私、あなたが好きよ」

「その話しの流れで言ったら、言っときゃいい感出ちゃうだろ!」

「それはそうでしょうね。だって私、ボリスへの気持ちに気づきはしたけど、あなたほど好き好きって熱烈ではないと思うし」

「にっぶ……」

「まぁでも気持ちがついてこれたって解かった以上は余計なこと考えないで誠心誠意添い遂げたい所存ですのでこれからもよろしくお願いします」

「はいはいよろしく……あいたっ!」


こくんとお辞儀したマシロのおでこと自分のおでこがごっつんこした。
言うほど痛くなかったが、互いに自分の額を摩りながら「大丈夫?」や「気をつけて」と思い合うのだった。


「さぁて。ご飯にしよっか。肉じゃがですって」


首を傾けるボリスに、カレーの材料にルーやスパイスではなくしょうゆや調味料で味付けしたものだよと説明する。
興味深げなボリスの顔を見て、とりあえず今夜はひもじい思いをさせなくて済むと安心した。


壁掛けの時計を見れば時刻は5時を過ぎた頃だ。
外は相変わらず雨模様でなお暗いが、今夜のうちに晴れればこの季節のことだ。早いうちに明日の日の出も見れるだろう。


明日のことは明日考えればいい。










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(2016/08/17)
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